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育成のプロに聞く!人材育成とは

2016.10.17

長年続く「自社の名物研修」で
会社のイノベ―ションリーダーをつくる(後編)

株式会社HRインスティテュート
フェロー/エグゼクティブコンサルタント
野口吉昭氏

事業企画・商品企画の立案プロセス・コンサルティングで700社以上の企業に関わり、3万人以上にアドバイスをしてきた野口さん。今や国内では押しも押されもせぬトップコンサルタントです。長年、多くの企業を見てきた経験から、前編では、人材育成の重要さについてお話しいただきました。引き続き後編では、実際に人材育成の現場で必要なものについてお聞きします。

文/山岸美夕紀 撮影/榊智朗

――人材育成のひとつの方法に社員研修があります。弊社も様々な研修プログラムを作り、提供していますが、研修ではどのようなことが大切だと思われますか?

人材育成の研修の中で、スキルなどの“How”(どのようにやるか)はもちろん必要ですが、“What”や “Why”の部分、「なぜそれをやるのか」「やることでどうなるのか」という意味を理解することはとても重要だと思います。狭い仕事ばかりしていると、どうしても頭がHowばかりになりWhatにいかなくなる。自分の領域だけでなく全社的なWhatまでをも意識でき、それを形にすることができ、実現できるような人材を育成するためにエネルギーを使うべきでしょう。

――野口さんが弊社で開催された研修・セミナーでよく行われていた「10問テスト」が印象的です。役職の高い人であっても点数が低いというケースもありました。

「2050年のGDPはどの国が1位になると予想されるか?」「また、日本は何位になるか?」「2050年の世界の人口はどれくらいになるか?」「また、日本の人口は?」といったデータを答えるテストですね。

これはまあ、単なる知識です。もちろん、ある一定の知識を持っていたほうがWhatをより考えやすいですし、点数が低かった人は自分自身の視野が狭い、視点が低いということを認識し自身を見つめ直すきっかけにはなると思います。

ですがもちろん知識だけではダメで、自分で考える力がなければいけませんよね。やはり、常に問題意識を持ち続けるということがもっとも重要です。

――その問題意識を喚起する、よい研修の条件はどのようなものだと思われますか?

私が思うには「より実践的であること」です。ツールや知識の勉強は大切ですが、その人の血となり肉となるか、問題意識を喚起するかというとちょっと違う。

私自身、色々と研修を行ってきた中でそう実感し、20年以上前から、「ワークアウト・プログラム」という具体的で実践的なテーマにこだわった研修プログラムを行ってきました。これは、研修の中でその会社の問題点やテーマを持ってきて事業企画案や商品企画案を作り、それを実際に経営陣にプレゼンテーションをするという内容です。取り組む人の熱が違ってきますし、困難もありますが、だからこそそこではじめてブレイクスルーできるんです。

――架空のシミュレーションではなく、実際のテーマを取り扱うのですね。このプログラムはどのように生み出されたのでしょうか。

もともと私は、コンサルタントが企業に対して提案する「コンテンツ・コンサルティング」のスタイルでやってきたのですが、どうも日本の場合には成果が薄いと感じていました。結果として、せっかく作ったレポートが埃をかぶるケースが多い。

けれど、会社側のプロジェクトチームと一緒に、資料を集めたりディスカッションを繰り返し行っていく中で、そのチームにいた人たちが育っていったんですよね。たとえば某大手通信事業会社の前社長や、日用品・医薬品の製造・販売企業の現社長、某自動車メーカーの技術研究所の所長なども、こういったプロジェクトチームの出身です。

「コンテンツ・コンサルティング」に対して、こういった企業の担当者が事業企画案や商品企画案をつくり私たちが支援する形を「プロセス・コンサルティング」と呼んでいます。これを提供するために作ったのがHRインスティテュートであり、これを研修プログラムにできないかということで作ったのが「ワークアウト・プログラム」です。

――なるほど。研修の中で、「この人は出世しそうだ」「会社のイノベ―ターになりそうだな」というのはわかるのでしょうか?

わかりますよ。先ほど話に出てきた出世した人々は、実践型の研修をやっていく中で迫力が違った。たとえばディスカッションの場面でも、しっかりと自分の考えを持っていて、同僚の意見や企画に「そのアウトプットはダメだろう」「そんなレベルじゃダメだ」というように“文句”をつけられるし、そのポイントを具体的に示すことができる。

言葉遣いに気を遣うなど周りに対する配慮もありつつ、ロジカルに自分の気持ちを込めて、愛情をこめて発言できる人間は伸びますね。

出世していく人はもともとの資質もあると思いますが、研修プログラムというのはそういう人材の比率を高めることが目的です。ですから、受講者同士で“文句”が言い合えて丁々発止できる、お互いを高めることができる実践型の研修というのは、身になると思いますね。

――今まで行ってこられた中で、印象に残っている研修はありますか?

某大手メーカーで16年間50期もの間行っていた「ワークアウト・プログラム」ですね。私がもっとも長期間請け負った仕事です。

1期平均10人ほどの定員で全12日間3か月かけて行うのですが、1人1テーマ、実際に自分のテーマか近未来のテーマを持ってきて揉む。それがすごく面白い。どうせいつかは会社で実際にやらなくてはいけないことを、受講者たちと私の力を借りて叩くことができるわけですから、本人たちにとっても無駄にならない。そうしてできあがったものを、最後に自分の上司にプレゼンするわけです。

そのプログラムの受講者は、だいたい部長になる直前あたりのクラス、一番忙しい人たちですよね。プログラムは週初めに行うことが多かったので、日曜日になるとみんな気が重くなったと言っていましたが(笑)、でもそれが彼らの血肉になった。大変だったけれども、すごく勉強になったと言ってくれる人が多かったですよ。実際、そのビジネスプランが通って300億を受注した人もいましたね。

――300億円! それはすごいです。人材育成担当者として、そういった“身になる研修プログラム”を選ぶためには、どのような視点が必要でしょうか。

研修の後、アンケートを取りますよね。でも、そのアンケート結果を読み間違えてはいけないと思います。つまり、研修が面白ければ結果もよくなるけれど、受講者たちのためになったかどうかは別だということもある。

面白くて簡単に理解できた、というのもいいのですが、本当に意味のある研修というのは、苦しんだ、大変だった、というようなものであることも多いわけです。だから、単なるアンケート結果のよしあしではなく、研修の中身をきちんと見極めることが大事ですよね。

それには、やはり受講者の生の声をどんどん聴くこと、そしてその中で「この人が経営リーダーの候補だな」という人間を見つけ出して、その人の意見を重視することも有効かと思います。

また、先ほどの例のように、何十年も続く「自社の名物プログラム」をつくるというのも重要だと思います。先にご紹介したプログラムは担当者が変わっても消えずにずっと16年間も続いた。こういう「あの研修を卒業した人間がやっぱり役員になっている」という名物プログラムをつくることができれば、会社の人材も育つと思うし、人事担当や研修担当も結果的に評価されるのではないかと思います。

どうしても、目の前にある問題を解消しようとするので新しいテーマを追ってしまいがちだと思いますが、もちろんそれはあってもいいけれど、引き続き何年も続けるような、大きな幹となる研修があると強いですよね。

社員たちの「底上げ」か「上を引っ張る」か、研修にもそれぞれ役割があると思います。どちらもバランスよく選択できるといいのではないでしょうか。

――本日は大変勉強になりました。ありがとうございました。

今回の記事に関連する野口さんの書籍『人をあきらめない組織―育てる仕組みと育つ現場のつくり方』も是非お読みください。

『人をあきらめない組織―育てる仕組みと育つ現場のつくり方』
(日本能率協会マネジメントセンター)

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