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育成のプロに聞く!人材育成とは

2016.10.03

ヒト・モノ・カネの中で一番は「ヒト」
社員はコストではなく投資と考えよ(前編)

株式会社HRインスティテュート
フェロー/エグゼクティブコンサルタント
野口吉昭氏

事業企画・商品企画の立案プロセス・コンサルティングで700社以上の企業に関わり、3万人以上にアドバイスをしてきた野口さん。今や国内では押しも押されもせぬトップコンサルタントです。長年、多くの企業を見てきた経験から、人材育成についてのお話を伺いました。前後編にわたってお届けします。

文/山岸美夕紀 撮影/榊智朗

――野口さんは、長年にわたり国内のあらゆる業種のトップ企業を見ていらっしゃいます。そういった中で、この20年ほどで日本をはじめ、企業を取り巻く環境の変化をどう感じられていますでしょうか。

バブル経済が崩壊し、2000年ころにはITバブルも崩壊して、いわゆる「失われた20年」と呼ばれる時期を経て、デフレ経済が恒常化していますよね。経済は成熟期に到達し、成長率の低迷が続いています。

産業でいえば、たとえば液晶テレビやプラズマテレビを基本に事業展開してきた、これまで日本をけん引してきたトップメーカーの多くが近年では「大幅な赤字」に転落し、液晶テレビ事業も国際影響力を持たなくなってしまった。

日本はもはや「ものづくり世界一」などとは言っていられません。日本のお家芸だった事業でも、コストなどを考慮すると韓国、台湾、中国に負けてしまっているものが次第に多くなっています。

一方で、長く踏ん張って40年、50年続けてきたグローバル企業は、大きな成果を結びつつある。そういう意味で、グローバルな視点での「強い産業」と「弱い産業」という産業構造のひとつの方向性が固まってきた20年という感じですね。

――時代についていけなかった企業が転落してしまっているという形でしょうか。

いや、時代についていけなかったのではなく、成長市場を創りだすことができない、ゲームチェンジができない企業が生き残れなかったということでしょう。液晶テレビ事業も新時代の市場を創れなかった。いまや、恒常的にイノベーションができない企業は存在意義がないのです。

これまでは、日本の人口は先進国の中では大きく、経済力もあって市場もあった。右肩上がりの成長の中で、そこそこの商品を作って、そこそこのチャネルを構築すれば売れてきたわけです。たとえ1位にならなくとも2位、3位あたりなら、収益が上がるという時代が続いていた。しかし、現在の構造はそうではない。やはり追随型の企業や時代の変化対応企業では、収益構造は改善されていないわけです。

また、成長市場―成熟市場―衰退市場 という流れがあって、それぞれの中で強いか弱いかというのはありますよね。衰退市場の中でも、そのトップで踏ん張っていればなんとか収益を上げられることもある。

――御社ではビジネスコンサルティングと研修プログラムの企画・開発をされていますが、現在はどのような企業からどのような研修依頼が多いのでしょうか。

我が社のクライアントは、成長市場か成熟市場で「強い」か「まあまあ強い」あたりの企業が多いですね。依頼の中で今もっとも多いのは、新規事業開発や新規商品開発といった将来に向けての「ビジョン&戦略」を作るというもの。これは昔からあったカリキュラムですが、依頼が増え、かつ私も好きな分野なので、近年ではその比率がどんどん上がっています。

「新しい価値をつくることにこだわりを持たねばならない」という経営者の良心や理念があり、そのもとに我々が仕事を請け負っているケースが多いと感じています。

――しかし、そのような理念を持つ企業はそう多くはないのではないでしょうか。

そうですね、今や一握りだと思います。たとえば、エレクトロニクス関係の企業は何万人ベースでリストラを行っていますし、それにかかわる取引先の中堅企業もリストラをせざるを得ないという状態になっている。いわば「資本主義」と「人本主義」というものがあったときに、明らかに「資本主義」が優位に立ちすぎて、日本企業の経営の価値基準でもあった「人本主義」というのが非常に薄くなってしまっているという現状だと感じます。

これまでの日本には、経営者の良心というか、経営者に「人本主義でなければならない」というひとつの縛りのようなものがありましたよね。やはり、企業は誰のものかといった時に「社員のものである」とを考えている経営者が多かった。でも今は「それどころじゃない」と。経営の苦しいこの時代、「ヒト」を「コスト」と捉える経営者が多くなってしまった。

――とはいえ、どんなに苦しい中でも人材育成というものは、しなくてはならないものですよね。

そうです。人材育成こそ経営の本質、中央にあるものだと私は思います。ヒト・モノ・カネの中で一番の投資はやっぱり「ヒト」。正直、人材育成にはお金がかかりますが、それを「コスト」と捉えるか「投資」と捉えるかの違いですよね。

3つの要素はすべて共通していて、開発への投資や工場を造るといった投資ができない会社は「ヒト」にも投資できない。私は、過去―現在―未来という時間軸を一生懸命に動かすことが経営の本質だと思っているのですが、人のコスト、研究開発のコスト、工場を作るコストというように、コストという考えばかりで過去と現在だけで時間が止まってしまっていて、なかなか未来にベクトルが向かない会社は投資できないですよね。

今後もデフレ傾向はなかなか止まらないでしょうし、優勝劣敗の格差はどうしてもついていくでしょう。優の方にいけるかどうかが企業の大きなテーマ。それには「成長市場の比率を高める」ということと、その中で「自社の強みに磨きをかける」ということに尽きると思いますね。

これらについては私の著書などにもまとめていますが、要するに、投資の方向を確実に見極めることができるのか、というところにあるのではないでしょうか。

――こういった中で、これからの経営リーダーに求められる資質はなんでしょう?

繰り返しになりますが、私はやはり、人材育成こそ経営の本質であり中央にあるものだと考える人、そこに投資する勇気がある人に、リーダーになってもらいたいなと思います。

要するに、経営ってバトンタッチなんですよね。たとえオーナー企業であってもそう。だから、その企業の持っている強みや特性をいかにしてイノベイティブにバトンタッチしていくのか。そのときの中心は、やっぱり「人」です。どんなバトンをどんな相手にどのように渡すのかによって、100メートル10秒台の選手が4人いるチームでも、9秒台が4人のチームにリレーで勝つことができるわけです。

バトンを渡された経営者はそのまま同じバトンを渡すのではなく、一生懸命スピードを上げて、次に渡さなきゃいけない。そのバトンをさらに磨くことも大事です。そして、渡される人間は渡される準備をしなくてはいけない。そういう企業の進化のプロセスを恒常的につくっていくという意味がわかっていて、それができる能力を持っていて、それをやろうとする人間が経営リーダーとなるべきだと思います。

――経営リーダーは、持つべきバトンを見極め、常に意識して磨かなくてはいけないわけですね。

だから、トップが短期に変わる会社はダメでしょうね。4年や6年では、やはりバトンを磨ききることができない。短いサイクルでトップが変わってしまうと、新しい市場構造、事業構造を作り出すことは難しいでしょう。社長の期間が決まっている企業もありますが、それはつまり社長という「ポスト」なんですよね。サラリーマンのポスト。

そうじゃなくて、経営というのは、もっと「社会とのつながり」の中に存在するわけです。自分さえ儲かればいいというのではなく、「社会に対してどう関わっていくことができるか」が根底にあるべきです。そういった「ミッション&ビジョン」を持って、顧客に対して、市場に対して、新しい価値をいつも創造していかなければいけないですよね。

だから経営リーダーは、受け取ったバトンを長くしたり短くしたり太くしたり細くしたり色を変えたり、最適なものを自分なりに判断してつくらなくてはいけない。

でも、多くの企業は、全社のアイデアをミドルクラスや経営企画部を中心に作っている。おかしな話ですよね。本来なら、たとえ大企業であっても、社長が自分で作るべきなんです。「俺はこう考えているから、こういったことをカタチにしてこい」というならまだいいのだけれど、社長が言うのは「何兆円で何パーセントの営業利益で……」「スクラップアンドビルドが必要で……」なんて、中身のないことばかり、というパターンも少なくない。

経営者自らがビジョナリーというか、チェンジメーカーでなければいけないと思います。これからの経営リーダーというのは、自分がチェンジメーカーである、もしくは多くのチェンジメーカーを育てるという意識を持ってほしいですね。

前編はここまでになります。次回の後編では、人材育成を直接的に担う現場についてお話しいただきます。

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