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育成のプロに聞く!人材育成とは

2016.12.12

アドラー心理学の考え・スキルを
実社会で活用できるプログラムに(後編)

有限会社ヒューマン・ギルド代表取締役
岩井俊憲氏

このところ注目を集めている「アドラー心理学」。これを30年以上前から一般に向けて広める活動を行っているのが岩井俊憲さんです。前編に続き、後編ではアドラー心理学の「勇気づけ」がどのようなシーンで役立つか、実際の研修の内容などについてお話をお伺いしました。

文/山岸美夕紀 撮影/榊智朗

――前編ではアドラー心理学を普及されるに至った経緯をお伺いしましたが、御社で提供される個人向け講座と企業研修で提供されるプログラムとでは内容は大きく異なるのでしょうか?

お伝えする人々とその目的に沿うように細部は変えてはいますが、根本は同じです。人とのコミュニケーションというのはすべてに共通しますから。

ありがたいことに、船井総研の創業者である船井幸雄さんが私に「勇気づけの本物の伝道師」と名付けてくださったのですが、私が非常に大切にしているこの「勇気づけ」の内容をすべてのプログラムに必ず入れ込んでいます。

前回もお話ししましたが、今、多くの企業を取り巻く雰囲気は「勇気くじき」によってネガティブになっている。人々は自信と勇気を奪われ、メンタルヘルスを損なう人も増えています。

――おっしゃる通りです。この「勇気づけ」を生かしたもっとも人気の研修が「変革型(勇気づけ)リーダーシップ研修」ですね。

はい、私が一番多く行っている研修です。所属管理者として必要な能力・役割を理解し、社員の意欲を向上させ、部下の能力を引き出すためのアドラー心理学にもとづいた指導法などを身につけることを目的としています。

この中で私が意識しているのは、組織だけでなく、家庭でも個人生活でも実践できるような構成です。というのも、個人、組織、家庭の三脚のどれが欠けても倒れてしまう。人の幸せにとって、その3つは切り離せないものだと考えているからです。

――なるほど。先生の研修では、まず知らない人同士で着席させますね。

そうですね、自分の好きな場所に知っている人と座るとコンフォートゾーンになり、新しい何かをやろうとするときの抵抗要因になりますが、小さな冒険心を持つことで変化への抵抗が少なくなるんです。

研修は、講義、討議、演習の3本柱で展開していき、討議と演習に7割近くを割いています。“わかる、できる、身に着く”というサイクルに入るためには、グループで討議して「あの人はこんな風に考えているんだ」「そんな見方があるんだ」と気づき、実生活に落とし込むことが大切なのです。

――最近では、立場を入れ替えたシミュレーションのワークが大変好評です。

実際の上司を部下役に、部下を上司役にした「ケアレスミス対応」のシミュレーションですね。軽くミスをした部下と上司の会話を再現してもらいますが、これがまた皆さん上手なんです。真剣に演技してください、というまでもなく、上司役の部下が「なんでそんなミスをしたんだ!」「笑ってる場合じゃないよ。どうしてなのか言ってみろ」なんて詰め寄る姿は大迫力です。

このように、部下のミスに対して「なぜ」「原因は」と執拗に追及する人は少なくないのですが、これはもちろん悪い例です。単なるケアレスミスに対してなぜなぜと詰めていって原因を探れば、相手は適当な理由やウソを言わざるを得なくなってしまう。それに個人攻撃になってしまう確立も高いです。やはり「原因を探る」ことは解決になりません。

このように一度自由に演技してもらい、そのあとに私がアドラー心理学の「勇気づけ」に基づいた良いコミュニケーション例を実演し、皆さんにも真似てもらいます。

これは、部下役を務めた上司の気づきが大きいんですよ。言われてみて初めて自分の行動や部下の気持ちに気づくわけです。

――「ほめる・しかる」の操作型リーダーシップから脱却し、勇気づけスキルを習得する「勇気づけワークアウト」のプログラムもご提供いただいています。

基本精神は同じなのですが、「変革型(勇気づけ)リーダーシップ研修」をより実践的にして、組織そのものを勇気づけの風土に変えていこう、というものです。「アドラーとは」という講義よりも実践的な学びを増やし、「勇気づけ」に基づいたものの見方、コミュニケーションをお伝えします。

これは、弊社ヒューマン・ギルドで行っている「ELM(エルム)勇気づけトレーナー養成講座」という講座をビジネス版にしたものです。この「ELM」では勇気づけのプログラムをすべて公開して、自由に広めてください、としているんです。弊社の利益は度外視して、世の中にアドラー心理学の「勇気づけ」がもっともっと広まってほしいという思いで行っています。

――ひと味違ったプログラムの「八掛人生」も反響がありますね。

はい、40歳代後半以降の方を主な対象としていて、コンセプトは、「生涯感動、生涯青春、生涯現役、生涯貢献」。

現代の人々は、親の世代よりも、容姿も体つきも考え方も含めて絶対的に若いですし、寿命も長い。人というのは親の世代をロールモデルに人生設計をするものですが、そう考えると、実年齢に0.8を掛けるくらいが現代人の実力年齢じゃないかと。そう考えれば、今の50歳は実力年齢40歳になります。そういうメッセージを込めて、定年のあとにももうひと花咲かせるためのヒントを「勇気づけ」でお伝えしています。

先日、ある市からシルバー世代の講演依頼を受けたのですが、60歳から92歳まで150人にお集まりいただきました。皆さん元気で、演習などもきちんと行われるんですよ。

今年の国勢調査では、初めて65歳以上の高齢者の割合が15歳未満の割合を上回ったと発表されましたが、ものすごいスピードで超高齢化社会に向かっており、これは加速することはあっても減速することはないことは明らか。その中で生き抜く知恵として、自分のできること、可能性を見つめようということをお伝えしています。

――これからの社会で、とても必要とされるテーマだと思います。

「持っているものをどう使うか」というのはアドラーの言葉なのですが、人はすべてリソースに満ちたプロなんです。経験や知識、人脈など、本当に些細なものでも貢献できるスキルになる。

たとえば私の以前の会社で製造課長をしていた人は、現在、色々なところに呼ばれて、子どもたちに「竹とんぼ」のつくり方・飛ばし方を教える活動を行っており、実に生き生きとしています。

人は、喜ばれ感謝されたり、待ってくれる誰かがいるんだと感じられることによって生き生きとします。不幸というものは、「自分は必要とされていない」と感じることだと思うんです。

たとえば、ヒューマン・ギルドでは14歳から86歳の受講者がいますが、最高齢の86歳の方は、現役で大学のカルチャーセンターでアドラー心理学の講師をしていらっしゃいますよ。年をとってからも、自分の中にあるリソースを見つけて、もしくは新しく学んで、貢献できることはたくさんあるのです。

――これは、いわゆる「遊軍」といわれるような人材、再雇用の人材を抱えた企業にとってもニーズがありますね。これらのすべての取り組みを通して、今後の展望というものはありますか?

勇気の伝道師ということで孤軍奮闘してきましたが、今、社内の講師が育ちました。また、弊社のプログラムをとおしてリーダー、トレーナーとなった人の数は現在1600人ほどにのぼりますが、そんな勇気づけのプログラムを外に向かって広げる小さな“勇気の伝道師”たちもたくさん育っています。私も研修講師として活動しながら、そういったリーダーやトレーナー、講師を勇気づけて育てていきたいというのがひとつの目標ですね。

今の目標は1万人です。勇気の伝道師がどんどん増え、全国的に勇気づけのマインドが広がっていくことを願っています。

――本日は大変勉強になりました。ありがとうございました。

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