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育成のプロに聞く!人材育成とは

2017.05.22

これからの時代は国内にいても
グローバルマインドが必要となる(後編)

株式会社HRインスティテュート 代表取締役社長
エグゼグティブコンサルタント
稲増美佳子氏

現在、人財育成・コンサルティング会社「HRインスティテュート」の代表取締役社長を務められている稲増さん。前編ではHRIの歩み、そして日本の持つ強みや、グローバル企業・人財の意義などについて広くお話しいただきました。後編ではプログラムの具体的な内容や今後の展望についてお聞きします。

文/山岸美夕紀 撮影/榊智朗

――御社は、稲増さんがグローバルリーダーを育成することに特化したサンダーバード大学院で学ばれたご経験などを活かされて、グローバルプログラムも展開されています。弊社でも提供いただいている「グローバルリーダー育成プログラム」について具体的にお教えください。

「グローバルリーダー育成プログラム」の入り口は、大きく2つあります。

1つは、日本人のネックになる英語や海外の人に対する苦手意識、つまりメンタルブロックの解消です。そのために私どもが作ったツールが、IBMのフランス人が提唱する「グロービッシュ」にヒントを得て作ったシンプルなイングリッシュ「シンプリッシュ」です。

グローバルビジネスの世界では、ノンネイティブ同士が話をするほうが圧倒的に多く、中国人もインド人もシンガポール人もインドネシア人もかなりブロークンな英語を使っているわけですが、彼らはネイティブの人と話すときも臆さないでコミュニケーションを取っている。日本人だってそのレベルのことはできるのに、パーフェクトな英語でないと恥かしいと思ってしまい、躊躇してしまうんですね。それがすごくもったいない。

この1700語のシンプルな単語の「シンプリッシュ」で簡単にコミュニケーションが取れることを知ると、自然にメンタルブロックがはずれます。このプログラムは、チームで行うのでチームビルディングにもなりますし、その後の日本人同士のコミュニケーションも大きく変わってくるんです。

外国人に対してだけでなく、ジェネレーションギャップやジェンダーギャップなどに対してもメンタルブロックがはずれ、多様性を受け入れられるマインドになるからです。「シンプリッシュ」は非常にわかりやすい、ツール的に使える体感型のプログラムですね。

――もうひとつのプログラムが「グローバルマインドセット」ですね。

はい。サンダーバード大学院の人気教授が構築した「グローバルマインドセットインベントリー(GMI)」をもとにしたプログラムです。

GMIは、世界中の企業が導入しているグローバル人財育成のためのアセスメントツールで、異文化環境の中でも成果を残すことができるリーダーとなるために必要とされる資質を、理解(頭)・心理(心)・行動(体)の3つの側面にそれぞれ3つ、全部で9つのコンピテンシーとして定義したものです。これで自己分析することによって、自分の強み・弱みを把握することができます。

たとえば、どんなにTOEICで高い点数が取れても、チャレンジする「心」が弱いとそれを活かすことができないですし、もしかしたらメンタルを壊してしまう可能性もあります。反対に、「体」の要素が強くて行動力はバツグンでも「頭」のコンピテンシーが弱ければ、ただの無謀な人ということに。つまりはバランスが必要なんですね。

自分の強み・弱みを知ってバランスを取ると共に、企業側も社員の特性を理解することで適切なサポートをすることができます。

この「シンプリッシュ」「グローバルマインドセット」の2つを押さえたうえで、MBA的な世界で通用する共通のビジネス言語や、戦略の立て方やマーケティング、プレゼンテーション、海外のメンバーと一緒にビジネスプランを練っていくワークショップ、海外赴任の方々向けの研修といったような実務的なプログラムが広がっていきます。

――「GMI」は、稲増さんがサンダーバード大学院に留学されていたころに勉強されたのですか?

いえ、その頃はまだこのツールは構築されていませんでした。グローバルで活躍している世界のグローバルリーダー約5000人に実際に聞き取り調査をしてまとめ、2000年以降に完成したものですが、私も日本に帰国してから数年経ったころ、サンダーバードから一人の教授が来日して、インタビューを受けた覚えがあります。あとから「ああ、あれがこのツールのための調査だったのね」とわかったのですが。

それらのデータから様々な要素を抽出して統計学に則って何度も精査し、絞り込んだコンピテンシーをモデル体型化したというものなので、開発だけで10年くらいはかかっているようです。

――稲増さんも調査対象のひとりだったのですね。この「グローバルマインドセット」は、3年目以内の若手社員を対象に導入されることが多いですね。

最近では、海外赴任を嫌がる傾向があるようですが、海外生活はそれほどハードルの高いものではないということを知ってもらい、意識を変えグローバルの感覚を持っていただけるようなプログラムとなっています。

また、これからは海外との接点は駐在や出張に限ったものではなくなります。自分の職場にも外国人のスタッフが入ってきたり、海外とやり取りをするなど、必ず海外とのかかわりという視点が入ってくる時代ですから、海外駐在する人だけではなく、日本国内で働く人だってグローバルリーダーのマインドを持って市場、製品を見ていく必要があるんですね。

そのことを理解されている大手グローバル企業では、グローバルマインド研修はほぼ基礎教育化しているようです。

――受講者からは、「刺激を受けた」「自分にはグローバルマインドは必要ないと思っていたが、意識が変わった」「実際に海外に行って学びたくなった」といった声をたくさんいただいています。

誰しも、いつまでも同じ会社にいるかはわかりませんし、何が起こっても、どんな地域、職場、職種に行っても自分は通用できるんだというグローバルマインドを持っていれば安心です。そういう自信になりますよね。

それからもうひとつ言いたいのは、前編でもお話しした“ビジネスがベターワールドを創っていく”という位置づけをきちんと理解して、グローバルマインドと向き合っていただきたい、ということです。

グローバルマインド、グローバリゼーションというのは、自社の商品が売れればいいとか、有名になればいいとかそういう狭い話ではありません。日本はGDP3位になってしまったとはいえトップクラスの経済大国ですし、その中で戦後たった一人として国の力で人を殺めていないという、平和を保っている国です。そんな価値観や日本の強みをしっかりと他の国々にも伝え、世界の調和に対してプラスになり得るものは浸透させていく使命があると思っています。

――前編では、グローバルカンパニーが今後の世界の調和を担っていくとお話しされました。

グローバリゼーションとは、いわゆるアメリカナイゼーションではなく、国々の多様性を認め合って各国の良さや価値観を融合し、新たなグローバルスタンダードを作り出すことであるべきだと思います。

ネスレやP&Gといった力のあるグローバルカンパニーは、そういうことをきちんと考えていますよね。人財の多様性を競争力のエネルギーにする姿勢がある企業は強いです。

それに対し、日本の企業は、M&Aして海外の会社を買っても、日本式のやり方をそのまま押し付けたり、ほとんどタッチせずに任せっきりにしてしまったがゆえの失敗例が多く見られます。そうでなく、各拠点の良さやそこで培われたノウハウを共有する形のマネジメントが必要ですよね。

――なるほど、そのとおりですね。最後に、御社の今後の展望をお聞かせください。

研修やコンサルタントでクライアントをバックアップすると共に、弊社自身のグローバル化も進めていきたいと思います。

弊社では、ベトナム、韓国、中国の支社もできましたが、そのつながりは、まだ日本本社を中心とした線の形です。その地域ごとのお客様のネットワークのつくり方や仕事の仕掛け方などがたくさんあるはずなので、もっとお互いの力を掛け合わせ、そこからシナジーが生まれてくるような面の形にしていきたいと思っています。

ソーシャル活動も、さらに推進していきたいですね。弊社の場合はCSR活動から、そのご縁でいろんな方々ともネットワークができ、そこから様々なニーズを聞くことができました。たとえばベトナム中部ではホテルが建設ラッシュの状態なのでおもてなしマネジメントの研修のニーズがありました。また日本人と日本語で対応できるガイドさんがほしいというニーズや、もっと日本とベトナム中部がつながるような関係性を作りたいといった要望も。ですので、弊社がその橋渡し役となれるよう活動を進めています。ダナンのほうではほぼ赤字覚悟のものもありますが、おかげさまでホーチミンのほうでは徐々にビジネスとして成り立つようになってきています。

ソーシャル活動とビジネス活動を上手に連動して、持続可能な価値提供&価値創造ができることを目指しています。

――大変勉強になりました。本日はありがとうございました。

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