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世界を舞台に働くために~白木夏子×『WONDER』 イベントレポート~<後編>

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全世界で話題の児童書『WONDER』の日本での発売を記念し、8月28日、代官山 蔦屋書店にて開催されたトークイベント。弊社出版『女(じぶん)を磨く 言葉の宝石』などでお馴染みの世界を舞台に働く女性リーダー・白木夏子さんが、ご自分の体験をもとに、大切に思われていることをお話されました。<前編はこちら

【プロフィール】

白木夏子(シラキ・ナツコ)

HASUNA Co.,Ltd.代表。1981年生まれ、愛知県育ち。英ロンドン大学卒業後、国際機関、金融業界を経て2009年4月にHASUNA Co.,Ltd.を設立。2011年、「日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー2011キャリアクリエイト部門」受賞。同年、世界経済フォーラム「Global Shapers」に選出。同年、AERA「日本を立て直す100人」に選出。2012年、APEC(ロシア)日本代表団として「Women and Economy会議」に参加。2013年、世界経済フォーラム(ダボス会議)に参加。2014年、「Women of the Future Summit」に参加。同年、内閣府「選択する未来」委員会 委員に選出。同年、Forbes誌「未来を創る日本の女性10人」に選出。

主な著書に『世界と、いっしょに輝く』(ナナロク社)、『自分のために生きる勇気』(ダイヤモンド社)、『女(じぶん)を磨く 言葉の宝石』(かんき出版)。

奥村知花(オクムラ・チカ)

1996年、成城大学文学部卒。総合アパレル商社、レストラン業界を経て、2003年より書籍専門のフリーランス広報として独立。以後、新刊書籍のパブリシティ活動のほか、「本しゃべりすと」という独自の肩書のもと、雑誌の特集記事や書評エッセイの連載執筆、ラジオ番組などでの書籍紹介を担当する。

渡部彩(ワタナベ・アヤ)

1986年生まれ。代官山 蔦屋書店ワークスタイルコンシェルジュ。ナショナルチェーン書店で書店員として勤務した後、IT系の出版社へ転職。書店営業として全国を行脚。2014年から代官山 蔦屋書店のコンシェルジュへ。多方面から本に携わった経験を生かし、同店のワークスタイルフロアの企画・運営を行っている。

 

●『親切』って何だろう?

 

奥村さん:生まれつき、顔に障がいを持った10歳の男の子、オーガストが主人公の『WONDER』。この中では“親切とは何か”ということが大きなテーマになっています。

 

白木さん:そうですね。21歳、ロンドン大学1年生のときの私の学習テーマが「貧困問題の解消」だったので、実際にインドの被差別部落を訪れました。カーストにすら入らないアウトカーストと呼ばれる人々がインドに1億人ほどいると言われています。私はインド人が立ち上げた人権回復運動をするNGOの活動について、激しい差別の中で生活している彼らと2カ月間一緒に過ごしました。

色々な村を30箇所ほど回ったのですが、NGOの人々は「差別問題の解消」を目指し、村人と共に活動を盛り上げていました。一方で、「あなたたちは可哀想だから施してあげる」というスタンスの他国のNGOもあったようです。現地の人々がそれにすごく違和感を覚えているということを聞き、ハッとしました。私にも、どこか心の底に「可哀想だから」「救ってあげなきゃ」という気持ちがあるのではないか。そう考えると、一体 “親切”とは、社会に貢献するとは何だろうと思い悩みました。

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奥村さん:相手を気遣うことによって、かえって相手に失礼だったり傷つけてしまうこともありますよね。

 

白木さん:はい。それって会社のスタッフや家族に対してなど、日常のあらゆることに言えるのではないかと思います。では、どうしたらいいのか……それは、人間にとって死ぬまで追求するテーマですよね。

この世の中には、様々なセクシャリティの、様々な立場の、様々な考え方の人たちがいて、その中で自分というものがある。そんな色々な視点に立って考え、自分の“最善”を追い求めていくことが重要だと考えさせられます。

 

奥村さん:本書の中でもオーガストのママが近いことを言っていますね。「世の中にはどうしても嫌な人、思いが相容れない人もいる。でもとっても親切な人もいて、そういったことが全部集まって世界なんだ」と教えるシーンにぐっときました。

 

 

●“エシカル”とは? 

渡部さん:エシカルの意味を、改めて教えていただけますでしょうか。

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白木さん:直訳すると「倫理的な」「道徳的な」といった意味ですが、ビジネスにおいては、児童労働や不当な搾取のないフェアな取り引きなど、人と社会と自然環境に配慮をした物作り、といった意味あいで使われています。

インドのある鉱山の村に訪れ、とてもショックを受けたことがありました。暗い顔をしたたくさんの子どもたちが、素手で鉱山から大理石や雲母などを掘り出して売っているんです。学校にも通えず、劣悪な状況で働かされているこうした子どもが、地球上には約100万人もいることを知りました。

たとえばそこで採れる雲母という鉱物は化粧品の“キラキラパウダー”などの素ですが、私たちが商品に支払ったお金は、彼らにはほとんど届いていない。そんな“企業が安く買い叩いて高く売る”というビジネスの考え方に強い疑問を感じ、何かをはじめなくてはと思いました。

不安も多くありましたが、“できるはずだ”という根拠のない自信もあり、試行錯誤の末「HASUNA」というジュエリーブランドを立ち上げました。創業7年目の現在、パキスタンやペルーやベリーズなど約10カ国と取り引きしており、実際に現地に行って賃金の流れをチェックするなどできる限りの努力をして透明性を図っています。

ですが、やはりきちんとビジネスとして成立させなければ持続可能ではありません。お客様も「社会貢献になるから」という気持ちだけでは、数万円、数十万円の商品にはなかなか手が伸びませんよね。特にジュエリーは、消費するものではなく常に身につけるアイテムですから。エシカルかどうかに関わらず、私自身が手に入れたいと思う最高に美しいジュエリーを作ることを第一にしています。

 

奥村さん:まず素敵な作品があり、その制作過程に関わるすべての人たちの生活環境を整える、素晴らしいビジネスだと感じます。

 

白木さん:近江商人の思想で「売り手よし、買い手よし、世間よし」というのがありますが、本当にこれが基本。それを常に考えています。

 

●私の大切な格言

奥村さん:最後になりますが、『WONDER』の中にもデビット・ボウイ、クリスティーナ・アギレラなど多くの格言が挟み込まれています。白木さんのお好きな格言を教えてください。

 

白木さん:「迷い夢見ることを憚るな。高い志向は子どもじみた遊びの中にあるのだ」。ドイツのフリードリヒ・フォン・シラーの言葉です。

若いころの私は、実力もなくとても中途半端な人間でしたが、壮大な夢だけはありました。また、子どものころに没頭していたことが、今目指している世界とつながっている。あのころのような心からわくわくする気持ちで仕事や遊びや趣味に勤しむことが、結局は周りの人々を明るくさせ、社会貢献にもつながるのではないか、そんなことを考えさせられた一言です。この言葉を知ったとき、「ああ、私は私でいいんだな」と感じられました。

何かをするとき、周りの人は色々と言いますよね。それはその人の考え方であり、色々な考え方があっていい。けれども、やっぱり自分が自分らしくあること、自分が選んだ道を正しいと信じて歩んでいくことが一番大切だと思っています。

 

●質問コーナー

当日は会場から質問を頂きました。その一部をご紹介します。

 

Q:白木さんは今何をしているときが一番ハッピーですか?

 

白木さん:基本的に毎日幸せな状態でいたいと思って生きています。そのきっかけのひとつが、とても優秀でこれから社会に貢献するであろう友人をバイク事故で亡くしたこと。本当に残念で悔しくて、それ以来、生きていることを100%楽しんで自分の使命を全うしたいと思うようになったんです。10代から20代前半にかけて暗く思い悩む時間が多かったので、もう悩み切ったんじゃないか、じゃあこれからは本当に楽しいと感じることだけやっていこうと。

で、今一番何が幸せか……というと、やっぱり子どもと一緒にいる時間でしょうか。一緒に絵本を読んだり散歩をしている時間がとても幸せに感じます。会話がどんどんできてくると、子どもなりの解釈を教えてくれ、色々な視点をもらえてすごく面白いです。

そして、出産後、働く時間が限られてからはなおさら思うのですが、仕事が幸せだと人生はより豊かになるなと。やっぱり自分のやりたい仕事を100%毎日やりたい。苦しんだり悩んだりするようならそれはもうすっぱりやめて、私も周りも楽しくいられることを追求しようと発想を変えたら、幸せでいられることが増えましたね。

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Q:逆に、仕事をはじめるにあたって大変だったこと、苦労したことはなんですか?

 

白木さん:たくさんあるんですが、あえて言うと、素材を現地まで買い付けに行くまでですね。当初、直接現地で買い付けをしているジュエリー会社はほとんどなかったですし、もちろんインターネット上にも各国の鉱山やバイヤー、ディーラーの情報なんて載っていない。その中でどうしたら現地とつながることができるかと手探りでした。色々な友人に聞いたり、SNSを使って情報を集めたり。昔はミクシィをやっていたので、その中のコロンビアやペルーなど様々な国のコミュニティーに「鉱山関係者や宝石の研磨職人の情報などがあればなんでもいいのでください!」という投稿をしまくって。(笑)

ベリーズという中米のすごく小さい国で働いている知人から、「とても素晴らしい貝殻の研磨職人がいる」と情報を寄せられればすぐに現地に飛んだり、ほんの少しの買い付けを行うために何十万円もかけて現地へ行きました。鉱山って都市の近くにあるわけじゃないですよね。パキスタンの鉱山なんかは行くだけで3日かかるんです。男性ばかりのイスラムの世界だったりすると危険なので眠れないし、すごく緊迫した中で移動したりするので、体力勝負、もう本当にアスリートみたいな状態。そういったことが大変と言えば大変でした。「すごく危険な世界だ」「殺されるよ」とディーラーたちにもよく忠告されましたが、喉元過ぎた今となってはいい笑い話です。

誰もやったことのないことをやるというのは大変ですが、でもそこにすごく価値があるのかなと思っています。

 

Q:10年後、20年後の夢や野望を教えてください

 

白木さん:そうですね、10年20年というスパンだと、まず「HASUNA」を日本を代表するジュエリーブランドにしたい。たとえば結婚指輪を買うときに、ほかのブランドと共に「HASUNA」が当たり前に選択肢に並ぶくらい。それがブランドとしての喜びでもあり、企業が大きくなればなるほど、たくさんの鉱山が健全な状態で回り、健全な働き方をする人が増えているということになると思うので。

私たちはごく日常的にお金を使いますが、それって、実はすごい力を持っているんです。毎日何らかに使うお金の先が社会貢献や誰かの幸せにつながっていく、それが理想だと思っています。消費者の心の中にエシカルが浸透しポリシーを持ってモノを買うようになれば、企業も変わらざるを得なくなります。すべての企業がエシカルである、倫理を持った経営をするということが理想の形であり、実現したい世界だと思います。

 

【書籍紹介】

女(じぶん)を磨く言葉の宝石』(かんき出版) 白木夏子/著

世界と日本を行き来しながら仕事をする白木夏子氏が、そのなかで経験した大切な出来事を、月ごとの誕生石になぞらえた12の物語として紡いでいます。

 

WONDER ワンダー』(ほるぷ出版) R・J・パラシオ/著、中井はるの/訳

世界で300万部を売り上げ米国NYタイムズベストセラー第1位に選ばれた児童書が日本上陸。顔に先天性の障がいを負った少年を中心に描かれる、心が震える物語。