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スマホ失明

川本晃司
定価
1,430円(税込)
判型
46判変形
体裁
並製
頁数
220頁
ジャンル
  • 暮らし・健康
ISBN
978-4-7612-7643-0
発行日
2022年12月21日

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書誌情報BOOKS

「スマホで失明」って大げさな、と思ったあなたへ
失明=全盲、ではありません
「はじめに」の「ある高校生に起こった悲劇」だけでも読んでください

<ある高校生に起こった悲劇>
デジタルデバイスの急速な普及による、「スマホ失明」リスク。
その急増の波は、もちろん、日本にも押し寄せています。
わかりやすい例が、若い人、特に10代の間で「急性スマホ内斜視」の患者さんが目立つようになってきたことです。
内斜視とは、左右の眼のどちらか、もしくは両方が内側を向いている状態のこと。
私たちの眼は、近くを見るとき、内側を向く「寄り眼」状態になります。
このとき、長時間近くのものを見続けて、寄り眼状態が固定化すると、固定化した視線の先にしかピントが合わなくなります。
すると、それ以外の場所を見たときに、二重にダブって見えるようになるわけです。
ちなみに急性内斜視は、もともと近視がある人が、長時間、近距離でものを見続けることで、発症しやすい傾向があります。
こうした内斜視の中でも、スマホを長時間見続けることで起こる急性症状のことを、私は特別に「急性スマホ内斜視」と呼んでいるのですが……。
先日も、私が診療している山口県防府市のかわもと眼科に、16歳の男子高校生がやってきました。お母さんに付き添われてきた彼の訴えは、「黒板が見えない」「教科書が見えない」というものでした。
検査結果に目を通すと、裸眼視力は右眼が0・03、左眼は0・04。すでに近視がかなり進んだ状態です。
彼はメガネをかけて片眼ずつで見れば、問題なく見えると言います。しかし両眼で見た瞬間に、見えなくなるんだとか。遠くの景色が見えない、授業中に黒板を見ようとすると見えない。教科書やマンガはもちろん、愛用しているスマホも見えない……。
彼に普段の生活を聞いたところ、毎日、かなり長い時間スマホを見ていることがわかりました。そのため、眼球が内側に寄った状態で固定化してしまい、片眼だけなら対象物にピントを合わせられても、両眼を使ったときにピントが合わなくなっていたのです。

「お子さんの眼は、スマホの使いすぎが原因で、急性内斜視を起こした可能性が高いです。
メガネで矯正が可能か、先ほど試してみましたが、矯正はできない様子です。詳しくはこの病気の専門の先生に聞いてみる必要がありますが、手術が必要かもしれません」

私がそう言うと、男の子とお母さんの様子がたちまち変わりました。
単なる近視だろうと思って受診したのに、まさか手術が必要になるとは思ってもみなかったのでしょう。この段階になって、ようやく二人は、「先生、どうすればいいですか⁉」とあせり始めました。
とはいえ、急性内斜視は「急性」というだけあって、一時的に斜視になった状態なので、しばらく近距離でものを見ないようにして生活すると、症状が軽減することも多いのです。
しかし近年は、スマホによる近業(44ページ参照)を長期間続けた結果、内側に寄った眼の状態が固定化してしまい、改善されずに手術となるケースが増えています。
彼の場合も、しばらくスマホをやめても症状は良くならなかったようで、後日、某県の大学病院で手術となりました。
ただ……残念なことに、手術をしても、見え方は完全に元通りにはならなかったそうです。彼には、常にものがダブって見える「複視」の症状が残ってしまいました。

失明には、3つの段階がある
ちなみに、私は失明には3つの段階があると考えています。
この分け方は、眼科の一般的な分類に、私独自の分類を持ち込んでいます。ポイントは、「失明」にも段階があり、それぞれの段階で失うものがあるということです。

失明の3段階とは、
❶「医学的失明」…… まったく見えない状態。
いわば真っ暗闇の中で生活する全盲のイメージです。

❷「社会的失明」…… 矯正視力(メガネやコンタクトを使用したときの視力)が「0・1」を下回り、社会生活を送る上でさまざまな不都合が生じる状態です。
文字情報を得ることが困難になり、新聞や本などは読めなくなります。
また、街中の交通標識や飲食店の大きな看板さえも判読できない状態となります。
当然、車の運転免許も取得できません。
現代社会において、人の活動が大きく制限されます。

❸「機能的失明」…… 疾病などで一時的あるいは部分的に見えないことで、社会的に「見えない人」として扱われる状態です。
例えば、病名としては緑内障の他、眼球運動障害、眼瞼けいれんや重症のドライアイがあります。
こうした病気のために、社会的に「見えない人」として扱われることで、さまざまな損失を被ることになります。
先ほどの男子高校生の場合は、盲目になったわけではないので、❶「医学的失明」ではありません。
しかし、複視により細かな文字情報などを得ることは困難で、この先、運転免許も取得できないと思われることから、❷「社会的失明」に該当します。
また、ものがよく見えないことで、学校をやめる、今従事している仕事をやめる、障害者年金の受取を拒否される、などの可能性があります。そうなると ❸「機能的失明」にも該当するでしょう。

人生100年時代という超長寿時代を生きる彼が、わずか16歳の若さでものがダブって見える病気を発症したことは、残り80年の人生の質を、これほどまで大きく下げるのです。

近視の進行からの失明という結末!
医療現場の実態と最新のデータから
この危機と対応策を解説

人生100年時代、眼が見えなくなった後の人生をどう生きますか?

目次詳細

はじめに
スマホで近視が進むと失明する!
ある高校生に起こった悲劇
失明には、3つの段階がある
子どもは親に「急性スマホ内斜視」を隠す
年々増加するスマホ利用時間
これまで近視対策ができなかった、二つの理由
近視対策 × 行動経済学
失明カスケードから逃れるために

第1章 新型コロナ禍で進行する「失明パンデミック」
新型コロナの陰で進行する、もう一つのパンデミック
「遺伝」以上のスピードで、近視人口が増えている
「失明パンデミック」を加速させる、二つの環境要因
スマホによる「近業時間の増加」で、近視が悪化する!
小学生は3時間、中学生は4時間、高校生は5時間スマホに触れている
コロナの巣ごもりで、さらに悪化した視力
2021年、視力「1・0」未満の小中学生が、過去最多に
子どもの頃の近視が原因で、「失明カスケード」を転がり落ちる
人生100年時代における「スマホ育児」の危険性
世界的な経済損失も懸念

第2章 「スマホ」と「近視」
ヒトの目のしくみ
治せる「仮性近視」と、治せない「軸性近視」
なぜ「近業」を続けると、軸性近視になるのか?
軸性近視の悪化が「病的近視」を引き起こす
子どもの眼軸長が、伸びている!
診察室でも、スマホを手放さない子どもたち
大人になっても、眼軸長の伸びが止まらない!
成長期に進行する軸性近視が、「スマホ失明」の引き金に
スマホの登場で、あらゆることが「近業」に
あなたの近視は、どれくらい進んでいる?
「眼軸長を測る」という取り組み
自分たちの目は、自分で守ろう

第3章 エビデンスのある、近視の進行抑制法とは
近視抑制法① 近業時間を減らす
近視抑制法② 1日2時間以上の戸外活動
近視抑制法③ 低濃度(0・01%)アトロピン点眼薬
近視抑制法④ オルソケラトロジー(角膜矯正療法)
近視抑制法⑤ 多焦点ソフトコンタクトレンズ
果たして近視対策法を実践できるのか?

第4章 行動経済学 × 近視対策
日本の近視対策は80年前から変わっていない
エビデンスを示されても、実践できない私たち
行動経済学とは、どんな学問か
行動経済学の中心命題「プロスペクト理論」
ヒトの背中をそっと押す「ナッジ」
私が行動経済学を学び始めたワケ
行動経済学 × 近視対策
ナッジ① 「近視年齢」で、近視の進行度を再認識
・「近視年齢」という「近視ナッジ」
・「フレーミング効果」で現状認識が変わる
・「近視対策を先延ばししている時間はない」という気づき
ナッジ② 失明を疑似体験「人生100年ナッジ」
・75歳で失明して、100歳まで生きてしまったら?
・ 家族は、見えなくなった「あなた」を支えてくれるのか?
・ 視力低下で、「孤独」という病に罹りやすくなる
・「失明による孤独」が、大きな経済的損失を生む
・私が実践する「人生100年ナッジ」
ナッジ③ 「サングラス・ナッジ」で、目の異常を早期発見
・視力の悪化に気づけない理由
・「毎日やってください」と言われても
・サングラスを合図に、確認スイッチON
ナッジ④ 「先生、教えて」で、正しい医療情報を
・「メガネで目が悪くなる」都市伝説を信じるお母さん
・ヒューリスティックにとらわれて、判断を誤ることも
・熟考すべきタイミングを誤らない
・「先生は、どうしていますか?」
ナッジ⑤「1週間で帳尻り合わせ」で戸外活動を増やす
・「1日2時間の戸外活動」は可能か?
・「1日」というフレームを変えてみると
ナッジ⑥ 「近業克服ナッジ」でスマホと付き合おう!
・「20-20-20」ルールの継続法
・小さなお子さんのために、インセンティブで「目の休憩」を促す
・近業を近業でなくすには
ナッジ⑦ 「逆サンクコスト」でオルソケラトロジーにトライ
・オルソケラトロジーのサブスクがスタート
・サブスクで「現状維持バイアス」が働くと
・「サンクコスト効果」で治療継続が容易になる
ナッジ⑧ ミクロ・ナッジの連続波状攻撃で近視抑制
・オルソケラトロジー治療とアトロピン点眼治療
・患者さん、親御さんの意思決定プロセスを可視化してみる
・近視進行抑制の重要性を認識してもらう
・眼科を受診してもらう
・近視進行抑制法の選択・決定
・眼科への定期健診を促す
・ミクロ・ナッジの連続・波状攻撃

第5章 スマホとの最適な共存を目指して
シリコンバレーの重鎮は、子どもにスマホを使わせない
「SNSのカリスマ」もデバイス使用を制限
デジタルデバイスでコミットメントする
iPhone の「スクリーンタイム設定機能」
Android 版には「Google ファミリーリンク」
モバイルライフトラッカー「UBhind」(iOS/Android 対応、英語のみ)
スマホ依存対策タイマー「Detox」(Android 対応)
デバイスの文字設定は大きめに
「リメンバー12、フロム18」で子どもの目を守ろう
音声配信を積極的に利用しよう
「耳活」で医学部にも合格できる
一生見える目のために、「ピア効果」を活用しよう

おわりに
やらなかった後悔は、永遠に残り続ける
「安いニッポン」と近視対策
近視進行と伸び続ける寿命

著者について

著:
川本晃司

眼科専門医(医学博士)・MBA(経営学修士)
1967年山口県生まれ。高校卒業後、産業廃棄物処理の日雇い労働をしていたが、一念発起して受験勉強を始め、28歳の時に山口大学医学部に入学。34歳で眼科医となり、44歳で眼科クリニック・かわもと眼科の院長となる。専門は角膜。2021年に北九州市立大学ビジネススクールでMBAを取得。現在は眼科専門医としての傍ら、北九州市立大学大学院で医療と認知心理学とを掛け合わせた学際的な研究を行っている。現在の研究テーマは「医療現『場』の行動経済学」と「医師と患者の認知心理学」。