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下重暁子先生

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著者インタビュー『わたしが子どもをもたない理由(わけ)』著者 下重暁子先生に聞きました!

更新:2017.6.23

近年、ゆるやかな減少傾向が続いている日本の出生率。そんな気風の中「子どもを産む・産まない」は義務ではないにも関わらず、多くの女性にとって無言の圧力となっています。『わたしが子どもをもたない理由(わけ)』は、子どもをもたない選択をした下重先生の生き方をまとめたもので、自分の人生を生きたいと願う女性たちの背中をそっと押してくれる一冊です。執筆の背景について、お話を伺いました。

本書を執筆するきっかけを教えていただけますか?

何年か前の女性誌のインタビューで、女優の山口智子さんの「子どもを産まない選択をした」という発言に対する世間の反応に違和感を抱いたことがひとつのきっかけです。彼女の生き方に対して、「立派だ!」と拍手を送る人もいれば、「結婚したら子どもを作るのが当たり前」という常識派からの非難もあり、賛否両論が巻き起こりました。私はその現象を見て、そんな普通のことに対してどうして過剰に反応するの? と驚きました。だって山口さんがひとりの女性として産まない選択したのは、ごく自然のことです。他人がとやかく言うことではないですよね。産みたくない人がいれば、産みたい人もいる。それでいいはずなのに、「産まない」と誰かが言うと大騒ぎになるのは、「女は子どもを産むもの」という刷り込みがあるからだと思いました。

本書の最終章では、10名の子どもをもたない方々の声が掲載されています。何か感じるところはありましたか?

本音を言っている人も言っていない人もいると思いますが、やはり「子どもをもたない人生、それでいいのだろうか?」という迷いとも不安ともとれるものが随所に垣間見えました。自信を持って「子どもを持たないのが私の生き方です!」と言っている人は少なかったですね。それはいささか残念ではあります。ただ、『家族という病』(幻冬社)を書いたときにいちばん多かった反響が、「これを読んで肩の荷がおりました」というものでした。今回の『私が子どもをもたない理由(わけ)』も、自分で人生の選択をしたにもかかわらず、これでいいのだろうか? と悩んでいる人たちの肩の荷をおろすために書いたようなもの。書くことは私にとっての自己表現だから、それで私も荷をおろしている気がします。実は一番ラクになっているのは私なのかもしれないですね(笑)。

執筆中、印象に残るエピソードなどはありましたか?

私は40代、50代の若い友人との付き合いを大切にしています。その中に子どもをもっている男性がいて、「どうして子どもを持つことにしたの?」と聞いてみたのです。そうしたら「何にも考えなかった」と彼は答えました。「結婚して自然に子どもができた」と。そうだろうな、と思います。いろいろと真剣に突き詰めて考えたら、子どもなんて作れません。ところが彼は、今になってみて子どもを持つということについて考えるし、私が言うこともなんとなくわかると言うんです。それはやはり、子育てにものすごく悩んでいるからなんですね。子どもを作る時は何も考えていないのに、後になっていろいろと考える。それが現実だと思います。子どもの出生は親の責任ですから、親が思い悩むというのは自然なことだと思います。

なるほど。この本は、すでに親となった人が子どもを持つということをもう一度考え直すきっかけにもなるんですね。

そうあって欲しいですね。子どもは親のものではなく、社会のものなんですよ。5〜6歳くらいまでは家庭で親が責任を持ってしつけなきゃいけないけれど、その後ある程度自分でものごとを考えられるようになったら、子どもだって個です。ひとりの人間として扱ってあげなきゃいけないし、そうじゃないといつまでたっても子離れ・親離れができない。親と子は、違う人なのです。親は自分の身体を使って子どもを産んだから一心同体のように思い込みがちですが、そうじゃない。子どもはいつか社会にお帰しするものなのです。

一方で子どもをもつ人ともたない人の間には、言葉にしないまでも「親になってこそ一人前」という、見えない壁があるような気がします。

私はときどき「あなたは子どもをもっていないから、子どものことなんて分からないでしょう」と言われることがあるのですが、とんでもないです。私も昔は子どもでした。身体が弱くていつもひとりでいたから、たくさんのことを考える、とても敏感な子どもでした。だから、子どもの頃に大人を見ていてどう思ったか、というのを思い出せば分かるわけです。過去に子どもじゃなかった人なんていないから、みんな分かるはずなのですが、自分の子どものこととなると途端に見えなくなってしまう。私が子どもと接するとき、それは自分の子どもじゃないから余計分かるんですよね。子どもの頃、母親のあれが嫌だった、大人のこういうところが嫌だった……なんて思い出すと、親子関係なんて時代が変わっても何も変わらないんだな、と思います。永遠のテーマですね。

先生は、子どもをもつことは、その人の人生を豊かにしてくれると思いますか?

本来はそうだと思います。でも、子どもを産み育てるという経験がその人の視野を広げるはずなのに、実際は逆に狭まっている人が多い気がします。それは、自己表現の手段を他に持っていない場合が顕著。私のまわりには、子どもを持たずに仕事で自己表現をしている魅力的な女性がたくさんいます。子どもがいないぶん、子どもに気をとられないで自由に自分の道を歩んでいる。そして少数ですが、子どもをもちながらも視野が狭まっていない人もちゃんといます。彼女たちは、仕事で自分を表現してバランスを取っている。仕事をしながらの育児はきついでしょうけれど、子どもにべったりにならず、むしろ活き活きと輝いている。女性が自分の人生を生きるためには、経済力と決断力です。自分で食べられなきゃいけないし、自分で決められなきゃいけない。そのふたつがあれば、自分で選択したことに責任を持つ自由な生き方ができます。私もこの両方を獲得するまでが大変でしたが、その後はラクになりました。

社会に出て仕事=自己表現をするということが、個として生きる糧になるのですね。

子どもがいると、家族というのは父、母、子どもがそれぞれ内側を向いた三角形の配置になりがちです。本当は横並びで3つあるだけがいいのですが、内向きの三角形だと周りが見えなくて、まったく緊張感のないワガママ放題の団体になってしまう。子どもがいるというだけで、すべてを子ども中心にしてしまうから、会話も子どものことだけ。家族という役割に甘んじてしまうのです。子どもがいない夫婦がいつまでも男と女でいられるとしたら、それは緊張感を継続しているということ。子どもに逃げるということがなく、面と向かって会話している。家族もそれぞれ違う人なのだということを思い出して欲しいです。世の中には、子どもが成長して巣立った後、もういちどふたりで向き合わなきゃいけない段になって、会話が噛み合わない、価値観も合わないという夫婦が多いようです。表面を繕って世間から幸せそうだと思われたとしても、結局自分の心の中はごまかせません。そういう意味でも、個としての緊張感を持ち続けたいと思いますね。

では最後に、個人的にオススメしたい本を一冊教えてください。

最近、丸善の書評誌で私が書評した恩田 陸さんの小説『蜜蜂と遠雷』です。この作品はその後、直木賞と本屋大賞をW受賞されました。ストーリーは第1次予選から3次予選、本選へと進むピアノコンクールを軸に構成され、それだけでも相当ドラマチック。読むと恩田さんがいかに音楽というものを深く理解されているかというのが分かります。技術を追い求めて心を失った音楽を伸びやかでおおらかな本来の姿に戻そう、自然に帰そう、というのがこの小説のテーマ。いま世界全体が内向きの時代になってきていますが、そうではなく視野を外に向けて広げること、既存の枠に捕われずに伸び伸びと生きることの大切さを教えてくれる本です。子どもの教育という視点でも、おおいに考えさせられます。現実は小説のようにうまくいくわけではないけれど、でも一番大事なことは子どもの才能の芽を摘まずに伸ばすこと。天才と呼ばれる人には神様がついている。私はそういうものを信じています。芸術に限らず、どの分野にもあると思いますね。

文/土谷沙織


著者プロフィール

下重暁子 (しもじゅうあきこ)

作家。日本ペンクラブ副会長。日本旅行作家協会会長。

早稲田大学教育学部国語国文科卒業。NHKに入局。アナウンサーとして活躍後フリーとなり、民放キャスターを経たのち、文筆活動に入る。ジャンルはエッセイ、評論、ノンフィクション、小説と多岐にわたる。公益財団法人JKA(旧:日本自転車振興会)会長等を歴任。

著書に、60万部を超すベストセラーとなった『家族という病』(幻冬舎)をはじめ、『持たない暮らし』(KADOKAWA/中経出版)『母の恋文』(KADOKAWA)、『「父」という異性』(青萠堂)、『老いの戒め』『若者よ、猛省しなさい』(集英社)などがある。

著作一覧

わたしが子どもをもたない理由(わけ)

定価 1,188円(税込)
判型 46判変形
体裁 並製
頁数 240頁
ISBN 978-4-7612-7255-5
発行日 2017年5月22日

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