これまで、“トヨタで学んだこと”をもとに何冊か出版していますが、すべてストーリー形式のもので、いわゆる“ビジネス書”の形で書いたことはありませんでした。でも、私の過去の著作を読んだかんき出版の編集さんから「原さんがトヨタで学んだことは“時短”に繋がっていることが多いのではないですか」と言われたんです。そんな意識はありませんでしたが、編集者さんからそう指摘されてはじめて無意識でやっていることが多くあることに気づきました。そして、いままでやってきたことや考えてきたことを「時短」という切り口で見直すと数多くの発見があり、これは本になるなと思ったんです。
著者インタビュー

ただのスキルではなく、「なんのためにそれをやるのか?」「どこに向かうべきなのか?」を考えさせてくれる『トヨタで学んだ自分を変えるすごい時短術』。「人生をよりよくするために時短術を使ってほしい」という著者の原先生にお話を聞きました。
本書を執筆するきっかけを教えてください。
ご自身で時短についての側面を意識されていなかったんですね。
はい。トヨタのメソッドと言われるのは「コスト削減」と「生産性アップ」の2つが大きなポイントです。いままでの私の本は「生産性」に重きを置いていたので、それなら今回は、さらに掘り下げて「時短」についてストレートに書いてみようか、ということになったんです。切り口が見つかったことで、アイデアはすぐ固まって目次もすぐにできました。
トヨタでは、「時短」という言葉を使わなくとも、時間を大切に使うことに関しては厳しく教えられてきたのですよね。
まずは、仕事の中で「動線」を意識することを教えられましたね。私は、トヨタの中でもブルーカラーの立場であるメカニックとして働いていたのですが、たとえば整備作業の際に物を取りに行くにしても、右から行くか左から行くかを考えなければいけなくて、効率が悪ければ先輩に怒られたりしました。トヨタは1秒をバカにしないのです。
本書でエレベーターの「閉じる」ボタンを押すか、行先の階数ボタンを押すか、という話があります。時短を考えるならまず先に「閉じる」ボタンを押すべき。些細なことですが、時間は細かいことの積み重ねです。そういったところを一人ひとりが意識するだけでも、時間の使い方というのは大きく変わります。

さらに、時間を意識する大きなきっかけがあったそうですね。
あとがきにも書きましたが、身近な先輩の死をきっかけに「自分もいつかは死ぬ」という当たり前のことに気づかされました。時間には限りがあるぞ、と。そこから時間を日々意識するようになったんです。毎日当たり前に体が動いて、仕事ができるということは、すごい奇跡なんですよね。それを大切にしないといけないなと。
さらに、子どもが産まれたことでますます時間を大切にするようになりました。仕事を二の次にするとか疎かにするということではなく、むしろ時間に限りがあればあるほど、生産性が上がると実感しています。終わりを意識するので、より集中するんですよね。
20代前半のころは時間は無限だと勘違いしていて、ダラダラと仕事をしていた面もあったと思いますが、今では、仕事以外にも毎日子どもと遊んだり毎月家族で旅行に行ったり、プライベートも充実させています。
本書を通じて読者に伝えたい一番大きなメッセージはなんでしょうか?
時間というのは人生そのものですから、「自分の人生を楽しんで!」ということですね。それを考えてもらうきっかけの1冊になればいいなと思います。
本書はビジネス書の体裁ですが、ただ単にスキルアップがゴール、というわけではないんです。時間を削ればそれでいい、というわけではありません。なんのためにそれをやるのか? どこに向かうべきなのか? それを皆さん自身で考えてほしいなと思います。

「時短」と聞くとシステマチックなイメージでしたが、本書を読んで、時短は「自分の人生を豊かにするため」のスキルであるべきだということがわかりました。全体的にポジティブ思考が感じられましたが、トヨタ式の思考でいくとポジティブになっていくのでしょうか。
基本的にポジティブですね。トヨタの現場では「できない言い訳なんかいらない。どうしたらできるのかを考えなさい」と言われ続け、物ごとをプラスの側面で見ていく習慣があるのです。だから自分の頭で考え、「やらされ感」がなくなります。
ただ、他の会社に転職するまではポジティブシンキングであることに気づきませんでした。トヨタにいるときはそれが普通だと思っていたんです。
私はトヨタを辞めて転職し、いわゆるブルーカラーからホワイトカラーに移った珍しい経歴があるのですが、そこで非常にカルチャーショックを受けました。ちょっとしたことでネガティブなことを口にしたり、フラフラと無駄に歩いていたりする社員を見るのは初めてだったんです。
なるほど、そうしてトヨタ式のすごさに気づかれたのですね。トヨタに関する本は非常に支持されますが、実際にトヨタで働かれていた原さんから見て、どのような点が魅力なのだと思われますか?
一度トヨタに入社すると滅多なことがない限り辞めないので、大半の人がそのすごさに気づかないのですが、客観的に見れば、トヨタは世界的にもトップを走っている大企業です。あれだけの規模であれば、うまくいかないときもあれば、下降してしまうときもあると思います。けれどトヨタという企業は、粛々と成長を続け、売上も営業利益もいまだに過去最高記録を更新している。アスリートでいえばイチロー選手のような感じですよね。でも、淡々と成長を続けるその影には、当然ながら様々な努力があります。それを皆さんは知りたいのではないかと思います。
それから、メソッドとしても「ムダなことを極限まで削る」などベーシックでわかりやすいのではないでしょうか。どうしても製造業にまつわる部分が有名になっていますが、基本的な考え方が中心なので、どの業種の企業でも取り入れることができると思います。
ツナギを着てオイルまみれの泥臭い現場を経験してから本を書いているのは私ぐらいかもしれません。ですから、自分の役目はその目線で学んだことを広めていくことだと思っています。
本書を制作する中で大変だったことはありますか?
制作については進行も順調で、編集さんとのやりとりも非常にスムーズでした。「時短本なんだから速くやらなきゃ」というプレッシャーはあったかも知れませんが(笑)。
あえて苦労した点を挙げるなら、これまでの著書は物語形式のものばかりでビジネス書の執筆は初めてだったので、書きながら「こんな感じでいいのかな?」と不安がつきまとったことでしょうか。
物語を書くときにはストーリーの流れを示す「プロット」を作って、キャラクターの性格などを考えて、それに従って書いていきます。一方、ビジネス書は自分の経験やノウハウを出していくので、最初に「棚卸し」をする感覚でしたね。これまで無意識にやっていることも多かったので、経験や思考を言語化していく作業が意外と難しかったです。
ありがとうございました。最後にオススメの本を教えてください。
実業家である本田直之さんの本が好きで、すべて読ませていただいています。その中でも一冊を挙げるとしたら最初の著書である『レバレッジ・シンキング』(東洋経済新報社)でしょうか。「レバレッジ」という考え方に影響を受け、日本人はこの考え方にならないといけないな、と思いました。
日本人はものすごく頑張って働いているイメージがあるのに、生産性はG7で最下位です。アメリカが100だとすると、日本は60なんです。そういった意味では、“成果を出す頑張り”をしなくてはいけない。ですから、最少の努力で最高の成果を挙げるという「レバレッジ」をかける行為は必要になってくると思います。僕の本と併せて読んでいただければ嬉しいですね。