PROFILE
西邨マユミ
1982年に単身渡米し、マクロビオティックの世界的権威である久司道夫氏に師事。2001年より、歌手マドンナのパーソナルシェフを通算10年間務め、多くのセレブリティにマクロビオティックの食事を提供。現在はマクロビオティック・パーソナルシェフを務める他、料理活動家として日本発信のライフスタイルを普及するため、国内外において精力的に活動中。『MAYUMI'S KITCHEN』など著書多数。
文/両角晴香 撮影/榊智朗 ヘアメイク/チチイカツキ 企画構成・コーディネート/板垣響紀
掲載日:2015/04/28
アスリートの方って、お肉をもりもり食べているイメージがあるかもしれませんが、アメリカなど海外で良い成績を残しているアスリートのなかには、ヴィーガン※2の方もいらっしゃるのですよ。たとえばウルトラマラソンのスコット・ジュレク氏は、大学時代にヴィーガンになり、それ以降に記録を伸ばしています。故障したときにマクロビオティックを取り入れる選手もたくさんいらっしゃいます。といいますのも、お肉をたくさん食べて身体を酷使するとと、血液が酸性になるため、筋肉が固くなり、故障につながりやすくなる。全粒穀物を中心とした菜食にすれば、短期間で血液がキレイになるため早く回復すると言われています。できればオリンピックの選手村でも、菜食主義者に配慮した食事が提供できると良いですね。
マドンナと出会うまでは、マクロビオティックの第一人者である久司道夫先生のもとで学び、ガン患者さんに食事を提供したり食の指導にあたっていました。そこで17年ほどキャリアを積んだところで知人のシェフを介してマドンナと出会い、2001年に初の専属シェフに抜擢していただきました。どうやら、2人の子どもをマクロビオティックで育てたという私の経験を買ってくださったようなんです。それから7年間、小さな子どもを抱えるマドンナ一家の3度の食事、スナック、デザートを振る舞い、サポートしました。
マクロビオティックはマドンナに大変効果があったようで、はじめて2年ほどで「病気にならない身体になった」と喜んでただきました。出会った当初は、筋肉ムキムキだった身体も、数年かけて徐々に女性らしいリーン(ほっそりと引き締まった)な体型へと生まれ変わりました。私がマクロビオティックのまねごとを始めたのは、18〜19歳の頃。そのときも1週間で変化に気がつきました。10代なんて夜遅くまで遊びたいし、朝はいつまででも寝ていたい年頃ですよね。それが、4時間程度の睡眠で十分満たされるし、じっと寝ていられないほど元気になる。「すごい、すごい!」と子どものようにはしゃいだのを覚えています。
体調を整えるためには、朝はみそ汁とご飯からスタートし、ランチはうどんなどの軽いものでOK、夜は炭水化物を摂らず野菜や豆などを中心にしましょう。夕食にお肉やお魚などのタンパク質を摂られたい方は、たっぷりの野菜と一緒にお召し上がりください。日本人は、糖尿病になりやすい体質にも関わらず、炭水化物(糖質)を摂りすぎる傾向にあります。まずはそこを改善できると良いですね。また、健康のためには血液をなるべくアルカリ性に持っていきたいので、酸性に傾かせてしまう肉などの動物性の食物、精製された砂糖やフルーツは控えることをおすすめします。
意外かもしれませんが、「有機・無添加」という点で、日本はアメリカに大きく遅れをとっています。アメリカのスーパーマーケットは、食品の約10%をオーガニックフードで占め、クレジットカードが使えない小さなお店ですら自社ブランドのオーガニックフードを展開しています。東京の街はニューヨークより規模が大きく、世界の最先端を走っているはずなのに、オーガニックフードが手に入る店があまりに少ない。また、ヴィーガン用の食材が手に入りにくいのも課題です。オーガニックフードと銘打っていても魚のお出汁が入っていては、ヴィーガンは食べられません。「有機・無添加」という食の安全を確保するためにすぐにでも動き出さないと、2020年のオリンピックまでに間に合わないと思います。
穀物や野菜・豆、ナッツやシーズがあれば、人は生きていけます。マクロビオティックを実践すれば、世界の飢餓を無くせると私は思っているのです。だって、牛一頭育てるのにどれだけの穀物飼料が必要と思いますか? 1kgの牛肉を得ようとすると、10kgの穀物飼料が必要です。牛3頭分の飼料を作るのに東京ドームくらいの大きさが必要になるという方もいます。それらがあれば、もっと多くの人が食べることができるはず。マクロビオティックはベースが穀物菜食ですから、宗教の違いを問わないユニバーサルな食事法ともいえます。もちろん、そこにお肉や乳製品など、色んな食材を足していくのは個人の自由です。ただ、今の日本には「菜食という選択」がない。肉・魚が絶対にダメと言っているのではなく、チョイスできることが必要。そこが問題なのです。
日本ではTPPやJAの解体など様々な課題がありますが、これら困難と思われることをポジティブに捉えて、やるべきことをしなくてはなりません。たとえば野菜は輸入されたものに頼るのではなく、安心安全な有機野菜にこだわる農家さんから私たち消費者が直接買えばいい。一つの農家さんでおそらく4家族分の面倒がみられるはずだし、食べてくれる人がいれば農家だって潤います。輸入品は確かに安いかもしれない。でも、輸送で消費するエネルギーは膨大です。限りある資源を無駄遣いすることは、地球をダメにしてしまうので結局は高くつくのです。それらを踏まえて食事をチョイスしていく時代がもうきていると思いますね。
福島原発事故を経て日本はなぜ再稼働の道を歩こうとするのか。震災後、健康被害を受ける子どもたちをなぜ政府は見て見ぬふりをするのか。そして原発沖縄の米軍基地問題……。これらの謎を、敗戦直後までさかのぼりひも解く。「国は人民のためにあるのだから、人民が変われば国も変わらざるを得ないのです。不満があれば声に出して言わなくては」と西邨さんは言う。「そもそも国が最も弱くなるのは、食べ物を輸入に頼って、国内供給が出来ないこと無くなることです。だからこそ自給率をあげる必要があるのです」。日本の自給率はわずか約40%だ。直接農家から野菜を購入するなど、日頃からリレーションシップを欠かさないことで、いざというときの助けになる。
1982年に単身渡米し、マクロビオティックの世界的権威である久司道夫氏に師事。2001年より、歌手マドンナのパーソナルシェフを通算10年間務め、多くのセレブリティにマクロビオティックの食事を提供。現在はマクロビオティック・パーソナルシェフを務める他、料理活動家として日本発信のライフスタイルを普及するため、国内外において精力的に活動中。『MAYUMI'S KITCHEN』など著書多数。
2011年4月に緊急上映された話題の映画を書籍化。フィンランドで建設中の核廃棄物の最終処分場の抱える様々な矛盾を浮き彫りにし、原子力エネルギーに依存する社会に問題を突きつける。3.11後の日本を考えるにも参考になる1冊です。