一世を風靡した初代“きれいなおねえさん”(パナソニック電工CM)の透明感あるイメージをずっと変わらず持ち続けている女優の水野真紀さん。キャリアも30年、さまざまな人生経験から得た内面の豊かさが加わり、ますます深い輝きを放っています。水野さんのこれまでと現在、そして未来について、お話をうかがいました。
文/土谷沙織 撮影/榊智朗 ヘアメイク/根津しずえ スタイリスト/村井緑 掲載日:2017/7/27
水野さんは、今年で芸能生活30周年を迎えられました。今までのキャリアを振り返ってみて、どんな思いでいらっしゃいますか?
私は、運と縁と時代の流れに恵まれてきたと思います。20代の頃、事務所には沢口靖子さんや古手川祐子さんなどの先輩方がいて、その先輩方と当時のマネージャーが道を切り開いてくださったのです。女優を売り出すには作戦があるようで(笑)、連続ドラマ収録の間、同時進行で2時間ドラマを撮ったのもそのひとつ。お陰で、今も2時間ドラマをやらせていただいています。早くから種をまき、何十年後につなげる…。そんな素晴らしいマネージメントをしてくれた方とのご縁なくして今の自分はいません。
連ドラをやりつつ、2時間ドラマもこなすのは、当時は異例だったと聞きます。水野さんがこのお仕事を始められた当初は、月給制のいわゆる“OL女優”。会社員だったお父様の背中を見て育ったので、自分が就職した会社(東宝芸能)に貢献したい、という気持ちで女優業に励まれたそうですね。
最初は無我夢中で働いているだけでした。ところがある時、自分がなんでこの仕事をしているのか分からなくなってしまって。その時の父の「需要があるから働いているんだろう」という言葉は、当時の私にすごく響きましたね。需要、つまり必要とされるからには応えなければ。これは責任感にも繋がります。CM撮影時には「私が出演することでその会社の営業さんが少しでも営業しやすくなれば」と願い、ドラマも「視聴率が悪いとプロデューサーの立場が悪くなるだろう」と想像したりして(笑)。置かれた状況で何をやるべきか、と考えることは仕事で鍛えられました。

今もお父様は水野さんの仕事や立場をよく理解してくれているそう。
水野さんは、今年の2月22日からオフィシャルブログをスタートされました。ブログでは、手間のかからない簡単な料理をはじめ、ちょっとした節約術やクスッと笑える日常の出来事などが親しみやすく飾らない文体で綴られています。
ブログのこと、実はいまだに同居の母に内緒なんです。プライベートを世間に出すのを嫌う人なので、写真を撮る時も母に見つからないよう、コソコソしています(笑)。ただ、やるからには毎日更新しようと自分に課してやっています。年齢を重ねるとどんどん言葉も漢字も忘れますから、辞書を引いたり、文章や構成を考えたりするのはすごくいいこと。あと、常にネタを探すようになりました。これが、日々の感性を磨くぞ! という気持ちにさせてくれるんです。ブログに鍛えさせてもらっていますね。
感性を磨くということでは、俳句も10年以上続けられていますね。
息子が1歳の頃でした。ドラマで冨士真奈美さんとご一緒して、「子育てに忙殺されて、季節も感じないまま日々が過ぎていきます」とこぼしたら、「じゃあ、句会にいらっしゃいよ」とお誘いいただいたのがきっかけです。子どもが大きくなるほど夜の句会に出かけるのが難しくなってきているので、メールで投句をしたりもしています。俳句はお金のかからない趣味ですし、季語はもちろん、新たな言葉や言い回しとの出会いは刺激的。俳句に限らず、新たな世界に飛び込んで無駄なことはひとつもないと思っています。そこでの人やモノとの関わりが新しい自分を育ててくれるはず。人生は長いので、老後のためにも少しずつ種をまいていきたいです。

ちゃんと新聞を読んで、鮮度ある情報を自分でキャッチしたい
小学6年生になる息子さんがかつての囲碁の全国大会に入賞されたとのこと。親子でそれぞれに趣味を極めていらっしゃるというか、何かに集中する時間を持っていらっしゃるというのは素晴らしいことですね。
息子は、囲碁と囲碁教室、そして同居の両親が育てたようなものです(笑)。私は、子育てはひとつの教育実験みたいな面があるととらえていまして。いろんなことをやらせてみてトライ&エラーを繰り返した中、息子にとっての大ヒットが囲碁でした。大河ドラマでも武将が対局するシーンがありますが、大局感が養われるといわれています。また盤上では常に自身の陣地確認のため、足し算、引き算、掛け算を繰り返すので頭はフル回転。我が家はみんな囲碁をたしなみますが、私はボロ負け、アマチュア6段の息子に大敗を喫する夫です(笑)。
お子さんのさらなる成長が楽しみですね。それでは最後に、2020年まで3年を切りましたが、その時にどのような自分になっていたいか、展望をお聞かせください。
2020年は、私も50歳。やはり日々の積み重ねしかないと思います。年齢を重ねると、新しいことは覚え辛くなるし、今でさえ覚えていたはずのことさえ忘れているんですから。普通に道を歩いているつもりでも、実はゆるい下り坂なんですよね。だからこそ、ちょっと負荷をかけて上り坂を歩くイメージでいるくらいが、現状維持にはちょうどいいのかもしれません。
以前、「流行には、食らいついていかなくちゃいけない」と知人が言ったんです。若い頃は吸収する感性もあるし、フットワークも軽い。だけど、年をとったら日々アンテナを立てておかないと鮮度ある情報が入り辛くなるという意味ですね。鮮度ある情報源としては、私が新聞が好きなんです。気になった記事は切り抜いて保存したりもします。もう20年以上の習慣です。
何事にも最近は「ときめきは自力で探す」ことを心掛けています。もはやときめきは向こうからはやってきません。些細なことにときめきた若いころのワクワクした感覚を思い出すと、細胞が活性化されるような気がして。美容効果大!と信じています(笑)。
水野真紀さんの推薦図書
『ビジネスマンの父より息子への30通の手紙』(新潮文庫)
G.キングスレイ ウォード/著 城山三郎/翻訳

ビジネスマンとして成功を収めた著者が同じ道を志している息子へ宛てて書いた手紙をまとめた本書は、ビジネスの世界のルールと人生の知恵、ノウハウの集積が語られ、全世界でミリオンセラーに。「この本は父の本棚にあって、ずっと気になっていました。大人になってから読んだら、どの世代にも響きそうないい言葉がいっぱい書かれていたんです。印象的なのは、“環境が大切だ”という話。やっぱり環境が人を育てるんですよね。だから良くない環境からは離れなくてはいけないですし、一方で環境を自分で変えていくことも大事。息子にもいつか読んでほしい。そしたら親子3世代で読み継ぐことになりますね」
ご自身が出演するCM撮影に臨む際は、依頼された会社の社員、商品のために…と語った水野さん。相手のことを考える姿勢はぜひお手本にしたいもの。本書は接客業に関する内容ですが、全体を通じて書かれているのは相手を理解したいという普遍的なものです。No1の接客業の神髄に触れてみては。
