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2020年のわたし「450年前のぶっ飛んだ美意識を継承する現代のTEA CEREMONY」

LEDライトに照らされた幻想的な茶室のプロデュースや現代作家によるドクロの形の茶碗を使用した茶席などで注目を集める、今までにないユニークなセンスを持った茶人・松村宗亮さん。伝統を重んじる茶の湯の世界に全く新しい価値観や思想を投げかける活動の陰には、茶の湯の本質である“人と人とのコミュニケーション” の楽しさを共有したいという熱くシンプルな想いがありました。

文/土谷沙織 撮影/榊智朗 企画構成・コーディネート/板垣響紀 掲載日:2017/5/26

松村さんがお茶を始められたのは23歳の頃。どういうきっかけだったのでしょうか?

松村さん

私は昭和50年に横浜に生まれ、幼稚園はインターナショナルスクールに通い、横浜らしい空気の中で日本文化を全く意識せずに育ちました。大学でヨーロッパ哲学を勉強しているうちに、ヨーロッパに興味を持ち、1年間休学をしてフランスを中心に各地をまわる旅に出たんです。外国に憧れを持っていた私ですが、そこで「どこまでいっても日本人は日本人だ」ということを痛感するに至りました。現地の方から日本について質問をされても、満足な回答ができなかったことが何度もあったんです。なぜなら私は、あまりにも日本を知らなさすぎた。いくら海外で外国人を相手に外国語を話せるようになったとしても、語るべき内容を持っていないと意味がないですよね。それで日本の伝統文化を勉強しようと思ってお茶を始めました。

それまでは、一切お茶に触れていなかった?

松村さん

はい。お茶会に行った事もなかったです。ヒップホップが好きでクラブに行ったり、山下公園でナンパしたり、普通の若者らしい青春を送っていました。お茶を始めたころは正座が痛かったですし、周りの生徒さんはお姉さまばかりで若い私を面白おかしくいじってくださいまして、「えへへ」なんて言っていました(笑)。そんな私がいざお茶を勉強し始めたら、どっぷりハマってしまったんです。

床下に設置したLEDライトによって浮かび上がる畳の目が4畳半を別世界のように演出。
松村さんの男性的なシャープなセンスが光る。

お茶のどういうところに心を掴まれたと思いますか?

松村さん

まず、亭主が集めた焼物や絵画などに囲まれた空間にお客さんを招いて、楽しい時間を過ごしてもらうというお茶本来のコンセプトにワクワクしました。また、細い道を通って小さな入口から茶室に入ったら別世界が待っているというアプローチは、まさに日常から非日常へのトリップ! 本当にビックリしました。450年前くらいの人たちがこんなことをして楽しんでいたなんて、ぶっ飛んでいる! と、感動したのを覚えています。お茶は価値観や信念を亭主とお客さんが共有するコミュニケーション手段だとすれば、大学時代に哲学を勉強して求めていたものと繋がるような気がしました。お茶が生まれた450年前と今とではどんなに科学技術やその他のことが進歩しても、人間そのものは何も変わっていないんじゃないかと思うんです。もしかしたら、美意識の掘り下げ方やコミュニケーションの取り方など、そういったものはかつての人たちの方がより優れていたかもしれないと思う時もあります。

30歳手前で一旦仕事を離れて、お茶の先生の資格を取るために裏千家の専門学校に3年間通われました。決断された時は、どんな心境だったのでしょうか?

松村さん

思い返すと、それしかなかったんだと思います。気持ち的に切羽詰まっていましたね。当時は家業(不動産や飲食店の経営)をやっていたのですが、「このまま特に変化もなく私の人生はずっと続くのかな? こんな生き方をしたかったのかな?」と悩んでいました。人生の方向転換に対する不安よりも、なんとなくの現状維持に対する不安の方が大きかったです。

その頃から現在の「SHUHALLY」のようなお茶教室の構想はあったのですか?

松村さん

お茶の先生というのは、3代くらい続いていないと充分な道具を所有できないし、生徒さんを集めるのも難しいという話を聞いたことがあります。ゼロから開拓する新規参入が大変難しいというその説に、へそ曲がりな私としては、なにくそ!みたいな気持ちもありましたし、自分なりの理想的なお茶教室の構想を持っていたので、その実現を第一目標にしました。なまじ大学院で経営学も学んでいたので、既存のシステムに対して新しいアプローチがあるのではないかという考えは強かったですね。情報をオープンにして様々な比較検討ができるよう、当時、茶道教室としてはまだ取り組みが少なかった教室ホームページのビジュアル面なども充実させて作りました。また、レッスン料金、目標達成の目安、体験教室の実施、いつでも退会できることなどを明記して、生徒さんにとって入りやすいかたちを考えました。

アーティストとのコラボで、現代ならではのお茶会を楽しむ

現代アートの掛け軸、グラフィティの描かれた襖、トゲトゲの付いた茶碗など、作家の個性が際立つ空間・道具にも注目が集まっていますね。

松村さん

好きなテイストの作家さんを見つけたら、ツイッターで話しかけたり、その方がもし近くで個展をやられていたら、会場まで行って「もしよかったら道具を作ってくれませんか?」と言って名刺を渡したりしています。作家さんたちもチャレンジしてみたいけど茶道具というものが分からないという人もいる。その場合は、理想的な寸法や使い方を説明するところから始めます。自分の好きな作家さんはテイストの近い作家さんと繋がりがあるので、だんだんとホッピングしていくうちに、陶芸の作家さんだけでなく、グラフィティの方、ライブペインティングの方など、いわゆるストリートアートや現代美術の作家さんなどとも交流が生まれるようになりました。作家さんたちのおかげで、毎回面白いお茶会ができています。今後もきっと面白い技術や文化が出てくるだろうし、そういったものとずっとコラボしていければと思います。

モダンな点前の道具は陶芸家・金理有さんの作品。
「自分の好きな作家さんに作ってもらった作品のおかげで、他のお茶会にはない個性が生まれます」

コラボレーションも楽しみですが、2020年を前に今どんなことが活動のカギになっていますか?

松村さん

絶好の日本文化のプレゼンの機会ですよね。外国の方々に日本で体験してみたいことを聞くと、必ず「TEA CEREMONY(茶道)」がキーワードとしてあがってくるそうです。なので、外国人の方にお茶という体験を提供したいと思っています。ただし、外国の方はもちろん日本人でも初心者の方に緊張を強いるようなものにはしたくない。まずは、リラックスして楽しんでいただくためのきっかけ作りが私の役目だと思っています。お茶に対して良い印象を持っていただいて、それをどう膨らませるか。和菓子、着物、お花、畳、庭、建築など、お茶を介して触れられる文化的要素はとても多いので、何かひとつでも琴線に響いて、後にその人の中で広がっていけばいいと思っています。

コミュニケーションのひとつとして、TEA CEREMONYがまた広がるとステキですね。

松村さん

反応に国民性が出て面白いですよ。スペインのバレンシアでお茶会をした時は、すごくラテンなノリで、お茶会の最中にバンバン質問が飛んできました。ポーランドでは、質疑応答の時間もシーンとしていたのに、最後にみんながバッと立ち上がって3分くらいスタンディングオベーションをしてくれました。一方アメリカのニューヨークだと、茶碗やお菓子などの物理的な面からすごい興味を持ってくださる方が多かった。またフランスでは、さっきまでワイン飲んで陽気に笑っていた人たちが、急に神妙な面持ちでお点前を見てくれて、「お茶碗を清める動作に精神世界を感じた」と言ってくれたりもしました。関心を持つポイント、感動の表現の仕方って欧米でも全然違うんですよね。私自身、賛否両論いろんな反応があっていいと思っています。万人にウケようなんて無理ですからね。そういった意味で、お茶の楽しみ方に正解はないということを、逆に外国の方を見ていて再認識させられますね。

生徒の年齢層は20代から60代と幅広い。
「うちの教室は、割と男性比率が高いので男性の方も始めやすいと思います」。

松村宗亮さんの推薦図書

『宇宙からの帰還』(中公文庫)
立花 隆/著

日本を代表するジャーナリストでありノンフィクション作家で知られる立花隆による、宇宙飛行士たちへのインタビュー集。想像をはるかに超える衝撃的な体験を、旺盛な知的好奇心と卓越したインタビューによって鮮やかに描き出す。興奮と感動に満ちた壮大な精神のドラマには、松村さんも深く魅了されたそう。「宇宙飛行士たちの言葉からは、美しい地球で人類が平和に暮らすことの尊さを教えられます。最初は学生時代に読んで、その後も何度か読み返しています。お茶の世界に流れているもの、私たちが最終的に求めるものって結局は平和なんだと思う。お茶をやっている限り常に片隅に持っておきたい平和への思いを、この本を読むたびに確認しています」

INFORMATION

SHUHALLY

毎回テーマの違う季節の茶会を不定期で開催。裏千家茶道教室は、横浜市の関内駅より徒歩3分の場所にある茶室「文彩庵」で行なわれる。この茶室は、都市の喧噪の中にありながら小間、広間、水屋、露地といった茶事のための空間を見事にしつらえ、茶室の持つ静寂さを存分に感じられる。

https://shuhally.jp

この記事を読んだ人にオススメしたい、かんき出版の1冊

松村さんは海外に出た際、日本のことを語れなかったとおっしゃっていました。茶道や華道など伝統的な日本文化に触れる機会は意外と少ないものです。本書では、先人からの伝言や、しきたりに込められたメッセージを紹介しつつ、伝統的なしきたりや年中行事のもつ意味を解説した1冊です。

暦・しきたり・アエノコト 日本人が大切にしたいうつくしい暮らし
暦・しきたり・アエノコト 日本人が大切にしたいうつくしい暮らし
井戸理恵子 /著 
定価 1,620円(税込)
判型 A5判変形
体裁 並製
頁数 192頁
ISBN 978-4-7612-6874-9
発行日 2012年11月19日
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