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2020年のわたし「現状を嘆き批判するだけでなく“自分にできること”を考える」

ジャーナリスト、キャスターとして、NHK退局後も活躍中の堀潤さん。さらに、双方向メディアや、市民が発信できるパブリックアクセスの構築など、最新のツールを取り入れながら新しい視点での情報発信に力を入れています。そんな堀さんの活動と想い、今後の構想などをお聞きしました。

文/山岸美夕紀 撮影/榊智朗 企画構成・コーディネート/板垣響紀 掲載日:2017/1/27

アナウンサーとして13年勤務されたNHKを退局されてから3年、現在の主な活動はどういった形でしょうか。

堀さん

NHKにいたころと同様、テレビやラジオの番組、インターネットメディアの出演や、新聞や雑誌の記事を書くといったジャーナリスト活動を行っています。NHK時代と一番違うのは、“取材費は全額自前である”ところなんですが(笑)、空いた時間は取材に出かけてそれらを各方面に発信しています。東日本大震災や熊本地震など被災地取材はもちろん、大統領選を受けての米国取材や、フィリピン、韓国、中国、ベトナム、ブラジルなど海外取材も。先日は「この土地は誰のものなのか」という共通テーマのもと、ヘリパッド問題に揺れる沖縄・高江や北方民族の歴史と文化を学ぶために北海道・網走などに行き取材してきました。大きなニュースではついつい置き去りになってしまっていることをしっかり取り上げる、ということをモットーにしています。

そういった活動をベースとしながら、NPO法人「8bitNews」を運営されていますね。

堀さん

はい。フリージャーナリストからメディアと関わりのない一般の主婦の方、学生など一般の人々の発信を支援する市民ニュースサイトです。大手メディアが取り上げない社会問題やニュースを市民の皆さん自らが発信することを目的として、NHK在職時の2012年に立ち上げました。
これは「パブリックアクセス」という考え方で、海外では、公共の資源であるテレビチャンネルや番組を、市民が運営する権利が保障されているところも多いんです。
ただ、「ニュースを創るのは“あなた”次第です」と言っても、どう取り組めばいいのかわからないという方もいらっしゃいます。そこで、毎日新聞やGoogleといった企業と提携しながら、取材力や撮影技術、編集能力、制作力、そして発信力などをお伝えするワークショップも開いています。

主婦や年配の方でもスマートフォンを使って発信できるよう、セミナーなども開催しているという堀さん。「自撮りしながら動画を撮影する場合は、スマートフォンの持ち方ひとつで手ぶれしなくなって、見やすい動画になります。こういう小さなコツもリテラシーと一緒にお伝えしています」。

その活動の核となっているものはなんでしょうか。

堀さん

世の中は常にたくさんの問題をはらんでいます。「政治が悪い、メディアが悪い、企業が悪い」と批判するのは簡単ですが、「それらの問題のために“自分に何ができるか”、市民ひとりひとりが考えてアクションしていこうよ」というのが私の大きなテーマなんです。
そのアクションのひとつとして、この数年で飛躍的に育っている「動画」というインフラが利用できるのではないかと考えています。

「8bitNews」で取り上げるニュースはどのようなものなのですか?

堀さん

たとえば震災の際には、メディアの報道って、どうしても亡くなってしまった方や被害者ばかりに向きがちですよね。けれど、無事ではあったけれど辛い日常を送っている方も数多くいるわけで、そんな人々がそれぞれに抱えている“絶え間ない日常の中の問題”を拾っていきたいと思っています。
一見、パーソナルで小さなテーマに見えますが、ある地方の主婦の方が送ってくれたひとつの動画をもとに私が取材に行って深堀りし、それがYahoo!ニュースに取り上げられてテレビやラジオにまで広がる……という連鎖が起きたりするんです。
原発事故直後に下請け業者に作業員として潜入取材した男性を支援したのですが、その動画がきっかけで、様々なメディアに広がっていったという例もあります。
ですから、大手メディアと私たちの活動というのはまったく別々のものではありません。お互いの力を利用し合い、上手に連携していくのが理想的だと考えています。

熊本地震で被災した方のご自宅から、堀さんが360度カメラを使って撮影した動画。ウェブブラウザのGoogle Chromeから閲覧すると360度の映像が見られます。見たい方向にクリックすると動きます。

インターネットをはじめとする新しいメディアと、旧来のマスメディアとの橋渡しのような役割もされているんですね。

堀さん

はい。今はどちらのメディアにも関わっていますが、正直、NHKを辞めた直後は、テレビにはもう二度と出ないだろうなと思っていました。メディアで伝えるだけでは世の中は変わらないし、アクションする側に回りたいなと思っていたので。ですが、辞めてすぐに、たくさんのメディアの人々が声をかけてくださって。
 TOKYO MXの「5時に夢中!」などの大川プロデューサーも真っ先に飛んできてくれて、「堀さんが言っている“テレビはもっと市民が使えるようにするべきだ”というのは、実は“東京都民がつくるニュース専門チャンネル”というMX開局の理念と同じ。堀さんのやりたいことが、きっとうちの局でやれると思いますよ」と声を掛けてくださったんです。そうしたことがきっかけで立ち上がったのが現在平日朝にキャスターを務めている「モーニングCROSS」です。「8bitNews」と一緒にやりたいと誘ってくれた「AbemaPrime」を制作するテレ朝のチームもそう。振り向いてみたら、同じような志を持ったチャレンジャーたちが、テレビ業界内や新聞、ウェブといったメディアの中にたくさんいることに気づきました。
今は、彼らとタッグを組んで、ユーザーの皆さんと双方向にやり取りしながら情報を伝えていくべく、新しい試みを模索しています。

東京が打ち出すべきは「ダイバーシティ」
私の活動テーマもまさに“多様性”です

現在チャレンジしている新しい取り組みはありますか?

堀さん

VRの技術というものに可能性を感じ、昨年はフジテレビ深夜の実験枠で「未来360会議」という番組を立ち上げました。360°カメラで撮影した360°映像をネット上で配信し、あたかも視聴者が会議に参加しているような臨場感を体験してもらう実験的な試みです。
また熊本地震の被災地を360°カメラで撮影し記録を残すなど取材にも活用しています。まだ画像が荒いなどの問題点がありますが、将来的に技術が発達すれば、非常に使えるツールになると思っています。
近々、新しい会社の立ち上げを考えているのですが、その中でもVR映像を活用しようという構想を練っているんです。素晴らしい取り組みでありながら、あまり知られていないNPOやNGOを支援するサービスで、記事を書ける人、映像を撮れる人、編集ができる人などをマッチングしていくというものです。その中のコンテンツのひとつとして、たとえば世界の紛争地域で活動しているNGOなら、まさに紛争地域の現場のVR映像を配信して視聴者にヘッドマウントディスプレイなどで疑似体験してもらい、共感したらすぐにボタンひとつですぐに寄付してもらう。そんな仕組みができればと考えています。

VRの技術などは大きな、近い未来に迫った東京オリンピックに向けても、発展がありそうです。その2020年への流れをどう見ておられますか?

堀さん

東京の打ち出す価値というのは、間違いなく“ダイバーシティ”だと思います。性別や年齢の違い、障害のあるなしに関わらず、いろいろなスポーツを楽しめ、コミュニケーションが取れること、そして“集団よりも個人に価値がある”ということが広まるひとつのきっかけになるといいなと思っています。
たとえば、1964年の東京オリンピックでは、パラリンピックというものが現在の形になる礎となる大会が開かれましたし、イラストで案内表示するピクトグラムなど新しいものも誕生しました。
今は、「どういう箱モノを作るか」という話に終始しがちですが、そうではなくて「2020年って○○がスタートした年だよね」と後に言えるものを創ることが大切ではないかと思います。

堀さん個人が目指すところはどこでしょう?

堀さん

私が目指しているものもまさに“多様性”です。100人いれば100通りのストーリーがあり、考え方があるわけで、それを伝えたいという想いで活動しています。これからも、現在の草の根運動的な取り組みを、淡々と続けていきたいですね。
NHKを辞めた直後には、あれもこれもやらなければと、急激な変化を求めて焦っていた部分もありました。でも、慎泰俊氏(認定NPO法人「Living in Peace」代表)に、「堀さん、変化はゆっくり起きるんですよ」と言われて「そうだよな」と思ったんです。あとから振り返って見て「ああ、こんなに変わっていたのか」と初めて気づくくらいのスピードの変化のほうが、実は社会を大きく変えていく。革命のようなものが起きて、一日でがらりと変わったとしても、それは本当に変わったとはいえないんですね。

なるほど、そのとおりですね。

堀さん

もうひとつ、強く共感を覚えた言葉に、国際連合のPKO幹部として世界の紛争処理などにあたられた東京外国語大学教授の伊勢崎賢治氏の言葉があります。「僕は、“戦争”の反対が“平和”だとは思わない。平らにするというのは、どこかの正義の押し付けだ。“戦争”の対義語は“共存”だと思う」と。
メディアはどうしても白黒つけたがります。SNSなどでも相手を論破しようとしてしまいがちですが、「白だ」といって染め上げることがディスカッションではありません。「こっちは白だけれど、黒もあるよね。何かできるかな。混ぜてみる?」といった多様性を尊重した柔軟な考え方が大切なのだと思っています。
そういったことを当たり前のように実行できるメディア環境を作るということも、2020年に向けての大きなテーマですね。

弊社も出版メディアとして考えさせられます。本日はありがとうございました。



堀潤さんの推薦図書

『変身』(新潮文庫)
フランツ・カフカ/著

学生時代、バブル崩壊前後の空虚な世の中に辟易し、政治やメディアにも不信感を抱いていたという堀さん。ある朝、突然巨大な毒虫になってしまった男の苦悩と、毒虫の死後に新しい生活を求めて笑顔で家を後にする家族、というストーリーに中学生のころ触れ、その不条理な世界観に『今の世の中、まさにこれじゃないか』と衝撃を受けたそう。「どんなことがあろうと日常は淡々と続いていく、世の中には巨悪もなければヒーローもいない、という私の思想の基盤になった作品です。だからこそ、そんな世の中に希望を灯したい、続いていく日常というものをしっかりとすくい上げたい、という想いが、私の活動の原点なんです」

INFORMATION

<レギュラー出演情報>
月曜日~金曜日 7:00~ モーニングCROSS(東京MX)
日曜日21:00~ モノクラーベ(BSスカパー)
火曜日20:00~ JAM THE WORLD(J-WAVE)
<連載>
「毎日新聞」「anan」「Tarzan」「ジュニアエラ」ほか
・市民記者が最新情報を投稿するニュース報道サイト
8bitNews

この記事を読んだ人にオススメしたい、かんき出版の1冊

堀さんからお話を伺っていると中庸であることの大切さ、ぶれない芯の強さを感じました。
それは自分を持っているぶれないメンタルがあればこそ。本書は心理学者×コンサルタント×元シールズ隊員の三人が「強さの秘密」を解明した翻訳書。自分軸を多角的に持つ参考になる1冊です。

STRONGER 「超一流のメンタル」を手に入れる
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定価 1,728円(税込)
判型 46判
体裁 並製
頁数 272頁
ISBN 978-4-7612-7215-9
発行日 2016年11月1日
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