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2020年のわたし「夢を実現できたのは遅いスタートだからこそ」松尾たいこさん

これまでに数百冊もの本の表紙イラストを手掛けてきた、本好きにはお馴染みで あろう人気イラストレーターの松尾たいこさん。広告のほか、近年では陶芸・陶画という新しいジャンルにもチャレンジされている松尾さんの過去と現在、そしてその先をお聞きしました。

文/山岸美夕紀 撮影/榊智朗 企画構成・コーディネート/板垣響紀 掲載日:2016/05/13

イラストレーターの仕事をはじめられたのは30代からだったそうですが、絵を描くことはもともとお好きだったのですか?

松尾さん

小さいころから、目立たないタイプでしたが、絵だけは大好きで自信がありました。イラストレーターに憧れはあってもそれは遠い世界のお話だと思っていて、両親の反対もあったので美大などには進まずに、短大に進学して地元で就職するという道を選んだんです。でも、働きながらも絵に対する気持ちはずっと消えなくて。そんなころ、相談した友人から、東京の美術学校であるセツ・モード・セミナーを教えてもらったんです。その校風はもちろんながら、受験がないという点も魅力でした。
でも、代わりにくじ引き制だったんですね。有給を取ってくじを引くためだけに日帰りで東京まで行き、その場で合格が決まったので、翌日会社に「辞めます」と言って辞めました。32歳のときです。

くじ引きですか! そのときくじに外れていたら、人生は全く違うものになっていたかもしれませんね。

松尾さん

そうですね。そのときは、10年以上働いた自分へのご褒美として「1年間だけ好きなことをしよう」という気持ちでした。その後は地元に戻って、代理店やデザイン会社などの事務でもいいので少しでも絵に関係する仕事を探そうかな、と。でも、入学してまもなく「イラストレーターになろう」と決意していました。
というのも、私が通う午後部にも、イラストやデザインなどの仕事をプロとして行う傍ら学びに来ているという人が何人かいたんですね。また、在学中に通い始めたイラストレーター・福井真一さんの主催するカルチャースクールで、ゲストでいらっしゃるアートディレクターやデザイナーといった方たちと知り合うことができて世界が広がった。そんな中で、イラストレーターになることは遠い“夢”ではなくて実現可能な職業であることを知ったんです。

上京3年後には個展も開催され、同時期に雑誌『イラストレーション』の公募展「チョイス」で入選し、プロとしての活動をスタートされました。

松尾さん

当時は、仕事を増やすためにも、作品集を自費出版したり、毎年、個展を開催するなど精力的に活動しました。個展では毎回モチーフを変えたり、イラストを浴衣や手ぬぐいにプリントしたり、自分の作品の幅を広げるとともに人にも飽きられないよう意識し、工夫して。

ご自分で戦略を立て発信するなど、その当時からセルフ・ブランディングをされていたのですね。

松尾さん

人よりスタートが遅かったのがかえってよかったのだと思います。そのハンディを挽回するためにはどうすればいいかと考えましたし、10年以上の社会人経験も活きたかもしれません。
周囲には、素敵な作品を作ってもアピールが上手じゃなかったり、尻込みしてしまったり……せっかくのチャンスを生かせない人も見ていたので、戦略を立てることは大切だと感じていました。
それに、子どものときから叶わないと思っていたイラストレーターという夢が現実になったので、それをずっと仕事として続けていきたいという強い思いがありましたね。

数々の装丁で見かける松尾さんのイラスト。
こちらは『巡礼者たち』(エリザベス・ギルバート著/新潮社)。

やりたいことや悩みは口に出し
人のアドバイスを素直にもらう

2002年からマネージャーさんも付けていらっしゃいます。

松尾さん

ひょんなことから出会い、あちらから声を掛けてもらったのがきっかけでお願いすることになったのですが、マネージャーにお金の関係やスケジューリング、トラブルの対処などまですべて任せることができているおかげで、私は作品を生むことだけに集中できています。公私ともに、アウトソーシングで解決できることは極力そうしたいタイプなので、このスタンスは性に合っていますし、とても助かっています。

人生のターニング・ポイントで適切な人に出逢い、アドバイスなどを受けられているように感じます。その秘訣はなんでしょう?

松尾さん

そうですね、私は悩みや疑問、興味のあることなど、すぐに口に出してしまうんです。色々な意味で“素直”であることは自負していて、人に言われたことは何でも試してみちゃう。だからアドバイスのしがいがあるのかもしれません。
自分の持っている経験値なんて少ないから、1人で考えてもその中で堂々巡りになってしまうじゃないですか。でも、口に出せば、それぞれの専門家にアドバイスをもらえる。そんな感じで、得意な部分は自分がやって、ほかは人に任せたり頼ったりしながら生きています。

現在は、東京、軽井沢、福井の3拠点を持ち、ご主人であるジャーナリストの佐々木俊尚氏とワンちゃんとでマルチハビテーション(多拠点生活)を実現されています。

松尾さん

拠点を分けたひとつのきっかけに、東日本大震災がありました。私も夫もフリーランスなので、当時は都内に少し大きな家を借りて住居兼オフィスにしていたんです。でももしこの拠点が被災してしまったら、住む場所も仕事をする場所も失ってしまうし、2人とも関西出身なので避難できる実家も近くにない。それはとても恐ろしいことだと感じました。
そこで、別荘ではなくセカンドオフィスという形で、軽井沢に家を1軒借りることにしたんです。軽井沢という場所に決めたのは、東京からの距離、交通、利便性などを検討した結果。昔からの別荘地なので、環境が整っていることが決め手でした。

その後、福井にも拠点を作られて。

松尾さん

現在、越前焼の陶器に絵を施す「 千年陶画」というプロジェクトを進めていて、福井の家はそのアトリエです。実は、数年前に絵を描くことに少し飽きそうになってしまった時期があって。何か新しい風を取り入れようと色々と模索した結果、陶芸と、その作品にカラフルで立体的な絵を施す陶画にたどり着きました。
陶芸をはじめたころ、それを福井在住の友人に何気なく話したら、なんと彼が福井市内に工房を開いたばかりというタイミングで「いつでも制作しにおいでよ」と誘ってくれたんです。福井には友人が多く、それまでも年に数回ほど訪れていたのですが、それをきっかけにさらに頻繁に通って制作するようになり、昨年からは越前陶芸村に隣接するアトリエを借りることになりました。

現在、手掛けているプロジェクト「 千年陶画」で作っているテラコッタ陶画の鳳凰。
カラフルでポップな作風で陶器のイメージをくつがえす。

やはり、人に話すことでまた広がりが生まれたのですね。

松尾さん

そうなんです。今は、1カ月のうちだいたい軽井沢に1週間弱、福井に1週間強、東京に2週間というペースで移動しています。福井のアトリエは豪雪地帯なので、冬の間は4カ月クローズしていて、この春からまた再開しました。
マルチハビテーションは、私たちにとって自然な流れの中で作られていった形です。

そうなのですね。それでは、日本のターニング・ポイントになるであろう2020年があと4年後に迫っていますが、そんな未来に向けての展望を教えてください。

松尾さん

2020年あたりには、現在、模索中の陶画をきちんと軌道に乗せたいなと思っています。私は、新しいことを自分のものにするまでだいたい3年くらいは掛かると考えているんですね。昨年から本格的にはじめた陶画も、来年か再来年くらいにスタイルを完成させることができればと思っています。そして、2020年にたくさんいらっしゃるであろう海外の人々に向けても、何らかの形で発表したいなと漠然と考えています。
でも実はそんな悠長なことは言っていられなくて、すでに今年の11月に陶画の個展会場を抑えてあるんです。それまでには展示作品を揃えなければいけないので、自分で自分にプレッシャーをかけている状態です。

それはすごいです! そうやってご自分の背中を押されているんですね。5月21日より上野の森美術館で開催される「ブータン」展ではアートディレクターを務められるなど、次々に新しいことにもチャレンジされていますね。

松尾さん

出来そうにないな……と思う仕事でも、面白そうだと感じたら思い切って受けてしまいます。これまでの経験の中では、色々な仕事を受けすぎて「もうできない!」と泣いたりしたこともあったのですが、最終的には、意外となんとかできてきたんですよね。
でもそれができるのは、1人じゃないから。マネージャーや夫をはじめ、相談できたり頼ったりできる人がいてこそだと思っています。

松尾たいこさんの推薦図書

『犬が星見た―ロシア旅行』 (中央公論新社)
武田百合子/著

著者が夫である作家・武田泰淳氏とともに1969年に訪れた、ロシア諸国と北欧の旅行記。松尾さんは著者の作品が大好きで、中でも本書は、10年ほど前に読んで以来何度も読み直す大切な1冊となっているそう。
「百合子さんは、私にとって憧れの女性。このころ40代半ばだと思うのですが、新鮮な目線で綴られた文章から、旺盛な好奇心や、年齢を感じさせない無邪気さとおおらかさを持つ彼女の魅力が存分に感じられます。たとえば、ご主人に頼まれたお酒を買いにひとりで街に繰り出すのですが、現地の言葉がまったく話せないので、身振り手振りでベロンベロンの酔っぱらいの真似をしてアピールするなど、すべてがキュートで愉快。読めば誰もが、百合子さんを好きになるんじゃないかと思います」

INFORMATION

『ブータン~しあわせに生きるためのヒント~』
上野の森美術館 本館1F 本館2F ギャラリー
5月21日 (土)~7月18日 (月・祝)

日本・ブータン外交関係樹立30周年記念事業として開催される、日本初の大型展覧会。ブータン仏教に関する仏像、仏画など貴重な文化資料や美術品のほか、ブータン王室のロイヤルコレクションから国王の衣装・装飾品など約140 点を初公開。「しあわせの国」ブータンの魅力が満載です。本展のアートディレクターを務める松尾さんのイラストを使用したかわいい展覧会グッズも販売予定!

ブータン ~しあわせに生きるためのヒント~ <オフィシャルサイト>

この記事を読んだ人にオススメしたい、かんき出版の1冊

松尾さんのように素敵な色使いのセンスをまねてみたい! という人には、大流行中の“大人のぬり絵”がオススメ。人気テキスタイルデザイナー、ジャニーヌ・モリソンの手掛ける繊細なフラワーモチーフのぬり絵に、気の向くままに色を塗っていくだけで、世界にたったひとつのオリジナル作品ができあがります。世界中でベストセラーとなっているコロリアージュ(ぬりえ)シリーズ、続編の「花のコロリアージュ Volume 2」「マンダラデザイン ぬり絵ブック」も絶賛発売中。

花のコロリアージュ フラワーデザインぬり絵ブック
Flower Designs Coloring Book
花のコロリアージュ フラワーデザインぬり絵ブック
定価 1,080円(税込)
判型 A4判変形
体裁 並製
頁数 128頁
ISBN 978-4-7612-7124-4
発行日 2015年11月2日
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