多くの企業で中長期目標に“DX”という言葉が入り、そのための人材獲得、育成についてのご相談も多くいただくようになりました。一方で人事・人材育成ご担当のみなさまからは、「DX人材育成」について具体的に何をすればいいか分からないという声をよく伺います。そこで今回は、わかりやすい事例を惹きながら、そもそもDXとは何なのか?、デジタル人材とはどういう人なのか、その育成のためにはどのような工夫が必要なのかについて、弊社コンサルタント・向井より説明いたしました。セミナーの一部をご紹介します。
DXって、改めてなんだっけ?
そもそもDXとは何か、日々触れているニュースでも定義が多様で、手ざわり感をもって腹落ちできていない方も多くいらっしゃいます。そこで、次の項目が「DXなのか」「DXではないのか」を振り分けながら、まずはDXについて一歩踏み込んで考えてみましょう。
●契約関係の処理が電子化された
●社内チャットツールを導入した
●出退勤管理がカードリーダーになった ・・・
ご自身が考えられた時に、DXとそうでないものの基準はどこにあったでしょうか。
DXの定義について、ここでは経済産業省が発表した「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン」を引いてみます。少し要約をすると、次のように記載されていました。
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企業が、データとデジタル技術を活用して、競争上の優位性を確立すること
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契約処理の電子化などに代表される「データやデジタル技術の活用」はDXの一部ではありますが、さらに「競争上の優位性を確立すること」につながっていることも重要である、ということですね。つまり、他社が容易にマネできることだけでは、DXとは言えないのではないでしょうか。DXの定義として、データやデジタル技術の活用は目につきますが、その取り組みが「競争上の優位性」にどうつながっているか?を考えることが、DXを理解する上で役立ちそうです。
社内のDX活動が競争優位性に繋がっているかどうかは、活動をQCDで分解して考えることができるのではないでしょうか。つまり、その活動の結果、他社が同じ品質(Q)でできない、同じ価格(C)でできない、同じ納期(D)でできない、という特徴につながっているかを考えると、その活動の特徴がより明確になるでしょう。
ここまで、自動車保険の例を取り上げながら、以下のポイントについてお伝えしました。
●DXは、競争優位性とセットで考える
●競争優位性=データ+デジタル+QCD
●DX時代=デジタルを知らないと問題解決できない時代
「デジタル人材」とは?
DXに必要な人材を考えるとき、どういう成果を求めるのか、という視点が欠かせません。では具体的にどのような「成果」を考えればよいのか、本セミナーでは独立行政法人情報処理推進機構の「企業とIT人財の実態調査」を参考にご紹介しました。その調査項目によると、よりDXの成果が出ている項目として、「業務の効率化による生産性の向上」が挙げられていました。他にも「既存製品・サービスの高付加価値化」「新規製品・サービスの創出」「現在のビジネスモデルの根本的な変革」「企業文化や組織マインドの根本的な変革」という項目が挙がっています。人事や人材育成担当の方にとっても、自社のDXに必要なデジタル人材を考えるためには、まずどういう成果を求めるかをブレイクダウンすることをお薦めしています。
さらにデジタル人材について考える時には、組織風土も考える必要があります。前出の調査では、成果が出ている企業と出ていない企業の「組織文化」にもギャップがあることがわかっています。具体的には、成果があがっている企業ほど、「リスクをとり、チャレンジ」「多様な価値観受容」「仕事を楽しむ」「意思決定のスピード」という項目が高い傾向があります。
こうした成果や組織風土を踏まえながら、具体的なデジタル人材を考えるにあたっては、「”DX”をつくる人」と「”DX”をつかう人」に分けて考えられるのではないでしょうか。「つくる人」は、プロダクトマネージャーやビジネスデザイナー、データサイエンティスト、UI/UXデザイナー、エンジニア・プログラマなどの職種の人であり、「つかう人」は直接的にはそうした職種ではないものの、現場でデジタルを使いこなしながら成果を上げる人をさします。
人材育成なにから始める?
「DXをつくる人」はある程度社内で個人まで特定できており、なおかつ必要な専門スキルが明確な場合が多いのではないでしょうか。こうした人材の育成については、事業部や個人ごとに成長機会を用意することが重要だと考えます。共通の講座提供だけでなく、独習補助の設計なども必要ではないでしょうか。
また、DX白書2021ではおもしろい調査も発表されていました。日米の企業で「企業変革を推進するためのリーダーにあるべきマインドおよびスキル」を調査したところ、「テクノロジーリテラシー」の項目が日本では12位だった一方、米国企業では4位だったそうです。日本企業においては、「テクノロジーリテラシーが低いリーダーがいることのリスク」について再考する必要があるかもしれません。その結果、DX推進に必要であればリーダー向けの育成の仕組みや機会の整備に活かすことができるでしょう。
また、「DXをつかう人」の育成については、既に行っているロジカルシンキング、仮説思考やデータ分析などの研修をDXの観点から再配置してみたり、DXリテラシー研修を新たに導入する必要があるでしょう。社外からデジタル人材を採用するハードルは、報酬面も含めてますます高くなっています。自社にもいるはずの潜在的なビジネス系/技術系人材を発掘する施策も検討課題に上がると考えています。
自社に必要なデジタル人材、組織のデジタル化について具体的にイメージをもち、必要な人材育成についてみなさんともご相談できればと考えています。