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育成のプロに聞く!人材育成とは

2017.09.01

これまで学んできたさまざまな知見が
「認知科学」の分野に集約された(前編)

トレスペクト教育研究所 代表
宇都出雅巳氏

実に幅広い分野の知見をお持ちの宇都出さん。それらをコーチングやNLP(神経言語プログラミング)の技術などと併せて、ビジネスパーソンに有用な知識やスキルを提供していらっしゃいます。近年では、認知科学の観点からも解説する、「リーダーシップ」「コミュニケーション」「聴き方」「読み方(速読)」「チームビルディング」などの研修が人気です。膨大な知識の源や、宇都出さんが講師になられた経緯などをお伺いしました。前後編にてお届けします。

文/山岸美夕紀 撮影/榊智朗

――宇都出さんは、東京大学経済学部を卒業後、出版社に勤められたそうですが、講師としてのスタートはどのようなきっかけだったのでしょうか?

大学卒業後に、経済出版社に記者として入社したのですが、そこで当時少しずつオフィスに入り始めていたパソコンと出会って、そちらに興味がいったんです。パソコンで原稿管理のシステムを組んだり、CD-ROMの新商品プロジェクトにかかわったり……。どんどんとそちらに興味が移り、出版社に6年勤めた後、営業システムのコンサルティング会社に転職しました。その後、2年ほどニューヨークにMBAを取るために留学し、帰国後に今度は外資系の銀行に転職。データベースマーケティング、インターネットマーケティングにかかわったほか、コールセンターのマネジメントなども受け持つようになったのですが、そこでかなりコミュニケーションに苦労したんです。

ちょうどこの頃にコーチングと出会いました。その中で、人の話を聴く際には、2つの聴き方があり、一つは「事柄」に焦点を当てる聴き方、もう一つは「人」に焦点を当てる聴き方ということを知って、大きな衝撃を受けたんです。というのも、私は今まで“売り上げを上げる”“生産性を上げる”といった「事柄」ばかりに焦点を当てていて、“人”に全く焦点を当てていなかったんです。

考えてみれば、コンサル時代も上司から「お前は聞いたふりはうまいが、本当に聴いていない」とか、そして部下からも「宇都出さんはほんと人の話を聴かないですね」なんて言われていたんです。自分としてはちゃんと聴いているつもりだったのですが、このことだったのか!とやっと自分が聴いていなかったことがわかりました。

これをきっかけに人の持つパワーや面白さというものに目覚めて、マネジメントスタイルも変わったんですね。するとビジネスはもちろんプライベートでも、どんどん良いほうに変化していったんです。

――考え方を変えるほどの衝撃だったのですね。その後、独立されて「トレスペクト経営教育研究所(現・トレスペクト教育研究所)」を立ち上げられます。

はい。独立後すぐに、営業コンサル時代に現場トレーニングなどをサポートしていただいていたトレーナーの方に声を掛けられて、リーダーシップやマネジメント研修の手伝いをはじめることになりました。これが人前で話すことをはじめた一番のきっかけだったと思います。

このほかにも、アメリカ留学前から学んでいた「NLP」のトレーナーを務めたり、コーチ養成機関であるCTIジャパンのトレーナーとして4年ほど活動するなどしました。

当時はコーチングが日本に入ったばかりのころで、マネジメントスキルとしてコーチングが注目され、実に数多くの研修やセミナーを担当しました。コーチングのトレーニングでは受講生が机に座って講義を聴いて学ぶスタイルではなく、どんどん実践演習をしてその経験のなかで自ら気づいて学んでいく「経験学習」のスタイルを非常に重視していました。

参加者が実際に体験した経験に基づいて、その経験を言葉にしながら対話をし、ときには感情的な反発なども起こる中で、参加者が率直に本音で話せるように安全・安心な場を創りながら、伝えていく役割です。研修やセミナーのやり方・あり方についてたくさんのことを学ばせてもらいました。

 

現在、私が提供しているプログラムでは、認知科学をはじめ理論的な説明はかなりしますが、できるだけ参加者の方にその場で実践し体験してもらうように心がけています。この頃の「経験学習」というスタイルを学んだ経験は大いに役立っています。

――会社員時代から、色々と並行して学ばれていたのですね。宇都出さんは、「速読」スキルも有名ですが、これは、いつごろどのように学ばれたのですか?

こちらは、最初は完全に趣味でした。学生時代に「1冊3分で読める!」という「速読」と出会い、「これができたらすごいぞ!」と安易に信じて、それを身につけようとさまざまな通信講座や教室で学んだんです。ざっと200万円以上は使ったでしょうか。きっと、私ほどさまざまな速読法を学んだ人も、これだけお金を費やした人もいないでしょう(笑)。

より多くの書物を速く読みたいという一心で、これを仕事にしようと考えていたわけではないのですが、私が速読の有効性を試験勉強で実践検証するメルマガを立ち上げたところ読者が増え、そのメルマガを書く中で「高速大量回転法」という勉強法が生まれ、それが大きな反響を呼んだのです。さらには、書籍を出版する流れになって。その『速読勉強術』という本がヒットして、この分野でのオファーが増えるようになったんです。

――その膨大な知識は、この速読法による大量の読書によっても支えられているのですね。月にどれくらいの本を読まれるのですか?

平均して100冊くらいでしょうか。もちろん「高速大量回転法」で読みます。この「高速大量回転法」はどんな読み方かというと、とにかく「高速」、つまり、素早く・ざっくり、そして「大量回転」、くり返して読む方法です。

速読なのにくり返すの?と思われるかもしれませんが、最初から順番にゆっくりじっくり読むよりも、結果的に速く深く読むことができます。

結局、多くのお金と時間を費やしてたどり着いた答えは、理解を伴って“速く読める”ようになるためには、目の動きの速さや視野の広さ訓練などではなく、「頭の中にどれだけそれに関する情報があるか」ということに尽きるのだ、ということ。

今こうやって話を聴いているときも、そして本を読んでいるときも、わたしたちは自分が持っている「記憶」を使って聴いたり、読んだりしています。ただ、記憶は勝手に思い出されて使われるので、ほとんどの人は記憶の重要性に気づいていません。

誰でも、知っている分野の本なら速く読めるけれど、まったく知らない分野については理解するのに時間がかかりますよね。言ってみれば身もふたもないのですが、それが突き詰めて得た答えです。

ポイントは読み手が持つ「記憶」。ざっくり素早くくり返して読む中で、記憶を効率的・効果的に蓄えながら、それを使って読んでいくのが「高速大量回転法」です。

認知科学でいうところの、一時的に記憶を留める「ワーキングメモリ」にも関係しているのですが、何度も何度も速くざっくりとくり返しながら一冊を読むというこの読み方は、頭から順にじっくり読むよりも「記憶」と「理解」が高まります。じっくりゆっくり読めば“読んだ”という満足感にはつながりますが、記憶・理解にはそんなにつながっていません。一見、非常識で「いい加減」な読み方に見える「高速大量回転法」のほうが効果的なのです。

前から順番にストーリーが展開していく小説などには向きませんが、体系的に知識が階層構造で整理されている参考書や専門書、ビジネス書などはこの方法が活用できます。

――これらの幅広い知見を組み合わせて、さまざまプログラムを提供されているのですね。

よく人には「宇都出さんは分野が幅広すぎて、何をやっているのか掴みづらい」などと言われるのですが、私の中では、これまで学んできたことはすべて繋がっているんです。

私のテーマを突き詰めると「聴く」と「読む」に行き着きます。この2つはつまり、相手の発信する情報を自分の中に取り込み理解するということ。そこで浮かび上がってくるのが「記憶」です。

「記憶」というとどうしても何かを「覚える」こと、「記憶力」といったイメージがあるかもしれませんが、よくよく考えてみると、私たちは“記憶の塊”なんです。詳しくは書籍『記憶力が最強のビジネススキルである』を読んでもらいたいのですが、われわれが何かを理解するときはもちろん、何かを認識するときにも記憶によって行われ、その制約を受けています。

同じ事柄に出会っても、同じ言葉を聴いても、感じることや理解することは人それぞれ持っている記憶が違うので違ってくる。

NLPなどでも「人間はプログラムの塊だ」という考え方をしますが、このプログラムというのもこの“記憶”と同じ意味あいです。

比較的新しい学問である「認知科学」によって、この記憶というものが次第に明らかになってきています。

――なるほど、宇都出さんの学ばれたさまざまな知識が認知科学に集約されているのですね。

はい、これまでに学んだ知見や体験を科学的に補完してくれたのが認知科学の分野でした。この分野をもっと早く知っていれば、速読法を学ぶために200万も使わなくて済んだのにと思うくらいです(笑)。

後編では、認知科学の見地からコミュニケーションを解説する「聴き方研修」ほかの研修についてお話を伺います。

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