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講師インタビュー 育成のプロに聞く!人材育成とは

2022.02.24

イクボスで男性育休・働き方改革を加速させ
みんなが幸せになる環境をつくる(後編)

株式会社東レ経営研究所 ダイバーシティ&ワークライフバランス推進部
チーフコンサルタント
NPO法人ファザーリング・ジャパン理事
塚越 学氏

会計士としてキャリアをスタートし、ワークライフバランス推進へと本業を転換した塚越氏。4月から施行される改定育児・介護休業法のインタビューの後編です。塚越氏ご自身の育休取得のご経験や、研修実施時に重視しているポイントなどを伺いました。

文/大西美貴

――ご自身は育休取得のとき、どのように仕事の段取りをされたんですか?

長男、次男の時は会計士時代で、仕事はハードでしたが、職場ではパパなキャラも認識されていたので、前もって育休を取りたい旨を話せば「塚越さんなら取る気がした」とチームメンバーにも理解されやすく、後輩や部下たちへの仕事の引き継ぎもスムーズにできたと思います。会計士は担当するクライアントが複数あり、そのクライアントだけチームがあって、上司も複数いるんです。上司も前向きにとらえてくれる人が多かったですが、中には難色を示す方もいらっしゃるわけで。

その場合は、以前から自分の後釜としてリーダーにしたいと考えていた後輩に仕事を渡して上司を説得しました。何かあれば復帰後にフォローするし、できる人材だからとにかく一緒にやって欲しいと。

実際、後輩の仕事ぶりは上々だったので問題なし。上司からすれば仕事が回れば私でなくても安心するわけです。

――後輩を育てるいい機会になったわけですね。

人材育成では、管理職は一回退いて仕事を渡すのも大事です。そういう意味で、育休は人材育成のOJTの機会にもなります。

――3回目の育休は8カ月間だったとか。

派遣社員から契約社員に変わったばかりの妻が会社から「直接雇用に変わって1年経っていないから育休が取れないけど大丈夫ですか?」と言われて、妻は産後休暇後すぐ職場に復帰し、私が交代して8か月の育休を取ることになったのです。

東レ経営研究所に入って三男が生まれたときですが、会社からすると大変な話ですよね。正社員で、管理職で、売上も上げているのに8カ月も休むなんて。

ちょうど育休を検討していた時期が会社の予算編成時期だったので、休業中の私の売上と人件費は予算に組み込まないで欲しいと交渉しました。私の売上を予算計上してしまうと、私がいない間、他のメンバーで私の売上目標まで達成しないといけなくなりますからね。同時に、残りの4カ月で、受注が見込まれる案件をたくさん仕込んで同僚に引き継ぐこともして、私のいない年度は部署の予算は無事目標達成できました。

一方、その後も妻は仕事を続けることができ、今は正社員で働いています。夫の育児家事参画は、妻のキャリアの選択肢を広げるという事例を我が家でも経験した気がします。

――男性育休への対策が遅れると、企業ではどんな問題が起こり得るでしょうか。

働き方改革もそうですが、一番は組織力の底上げが図れないというか、チーム力が育まれないのではと。

チームで仕事を進めるって本当に困らない限りなかなか進まない。できる人がいれば、その人に頼った方が早いし、頼られている方も引き継ぎは面倒だからつい自分でやってしまうんです。

仕事に人を付ける欧米の企業と比べると、日本は人に仕事を付けるので、自分しかわからない仕事が増えていくし、年数が経つほど引き継ぐのが面倒になる。こうして、ノウハウは人に蓄積され、休まれたら困るし、退社するときはノウハウごと持っていかれるケースも珍しくないんです。

そこで、日本では長時間労働で休暇も取らない傾向にある男性社員が、育休で周りに迷惑をかけるくらいの期間休むことになれば、その男性社員に蓄積されていたノウハウ、誰とどんな仕事をしていたか、どんなやり方をしていたか、どこまで進んでいたかを他の職場メンバーと共有して、チームに引き継いでいかなければならなくなる。

今回の育休法改正を好機に、腹をくくって働き方改革やチーム力向上に取り組むことをお勧めしています。

――実際に、ご登壇される研修ではどんな所に重点をおいていますか?

ポジティブになれるようなプログラムにしたいと思っています。

多くの研修事務局で、管理職が変わってくれないとお困りですが、それは情報がアップデートされないままマネジメントしているからだと思うんです。

研修機会の少ない管理職はインプットがないまま自分のバイアスで補って、結果的に無理がきて苦しんでいる。

そこで、いまの状況を正しい情報としてご提示すると、決して斜めに見るのでなく、ご自身で考えてくださるんです。

実例とデータを組み合わせて、感情にも響くようなエピソードも入れて、イクボス式のマネジメントでは実際に体感していただくためにワークも交えます。そうして、自分が変わると職場もハッピーになるかもしれないという情報を差し上げると、なるほど、イクボスになってみるかという発想に変わっていくんです。

――あなたが変わらなければいけない、という視点ではなく、まずは情報を提示する。

こうすべき、ああすべき、という言い方は私はしません。

データや情報、事例は数多く紹介して、「参考になれば使ってください」と言い添えています。管理職は基本できる方々なので、正しい情報を差し上げるとそれぞれの状況に照らし合わせて取捨選択されます。

ただ、研修直後はアンケート結果も良く、「変わるかもしれない」と思ってもらえるのですが、意識啓発だけでは変革は続かない。そこで事務局には研修後の仕掛けや仕組みづくりも大事だとお話ししています。ケースバイケースですが、それぞれの企業にフィットするよう、どう管理職の行動変容をサポートしていくかについてアドバイスすることも多いですね。おかげさまでリピートも多くいただいています。

――そうして続けてこられた研修で思い出深いエピソードはありますか?

それまで男性育休の取得者がゼロだった営業現場で、管理職研修後に育休取得者が数十人になったという企業がありました。営業が花形でここが変わらないと進まない、という会社だったんですが、管理職の方々に動いてもらうために、営業担当の役員の方にもご登場いただくというお願いをしまして。

おかげで私の研修もスムーズに届いて、具体的な動きにつながりました。

男性育休の場合は数字で現れてくるのでわかりやすいですね。こういった例はいくつもあります。

――では、研修で受講者の方々につかんで欲しいこととは?

自分ごとにするということでしょうか。人って「やろうと思えばできる」と思いがちで、自分ごとにならないと動かないものです。ですから、受講者の方々の気持ちがどう動くか、スライドの見せ方や順序を考えつつ、動いた時点でワークを入れて参考にしていただくなど実感値が高まるように工夫しています。

――アンケート結果やリピートを見ると、「納得度が高い」という声が多いですね。自分ごとに捉えてもらうための仕掛けが塚越さんの売りでしょうか。

そうかもしれませんね。私、忖度しないんですよ。必要なことは遠慮せずにガンガン言う。もちろん、目的があってのことですが。研修前に事務局の方にいくつか質問をすると、その企業の状況が分かりますから、研修効果と決定の質をあげるために、受講者にも事務局にも必要なことはどんどん話します。それで納得していただけるのはうれしいです。

――イクボスとして普段の生活で心がけていることはありますか?

人生を楽しむことでしょうか。イクボスの「育」って、部下や組織を育て社会を育てながら自分をも育てることだと考えています。

部下を早く帰らせて、その分上司が残業するのは残念な働き方改革でよく聞く構図ですが、部下も自分も早く帰って、みんなで幸せになる、そのためにどうすればいいのかを考える。仕事でも、仕事以外でもワクワクできて、あんなボスになりたいと思ってもらえるような。あるいは、私自身がNPOや自治体、PTAなどいろんな活動をし、様々な場で得た経験や情報を職場やクライアントにも伝えて、私の周りのみんなで成長していく。常に楽しんでやるよう心がけています。

――3人の子育てを経験して、仕事の仕方は変わりましたか?

一番変わったのは時間の使い方ですね。会計士時代は100の仕事があればどんなに時間をかけてでも100終わるまで職場を出なかったことが多かったですが、いまは時間がきたら70でも帰る。残りの30は翌日でもいいように全体を見ながら優先順位を決めて進めていくようになりました。

人って、時間があるとある分だけ仕事をしてしまうんですね。時間をかけたところで意外と外からの評価は変わらなかったり、単なる自己満足だったり。

今は限られた時間でデッドラインを決め、追い込むことで集中しています。

――育休中に家事もお得意になったとか。

得意ではありませんが、何でもやりますよ。けれど、やり過ぎないことに決めました。

育児休業中に、時間があるからといって、手作り料理の品数を増やしたり布団を干したり、丁寧に拭き掃除もした時期があったのですが、家事の質をあげても、職場復帰したらまた元に戻ると気づいてやめました。そして、育休中に余った時間を社会活動に使うことにしたんです。子供を抱っこしながらイベントに行ったり、企画書を作って、打ち合わせに行ったり。ファザーリング・ジャパンのイクボスプロジェクトはこうして推進しました。

――本業にNPOに自治体の活動と、お忙しい毎日ですね。

自分ではそんなつもりはないんですが、子供たちは「パパは忙しそうだ」と思っているのかもしれませんね。世のパパたちよりは圧倒的に子どもたちと一緒にいる時間は長いはずですが、「もっと遊んで」っていう子どもたちの欲望には限りがないですからね、全部には応えられない葛藤もありますね。

けれど、最初にも話したように社会正義のための活動というより、あくまで自分の子供を守ることが発端なので、中長期的には子供たちの未来につながる活動でもあり、逆に今の家族を犠牲にしてまでやる活動でもないというバランスも大切だと思っています。

NPOの活動も、経済活動の観点からするとマーケティングでもあって、すべての活動が連動しているんです。FJの育休活動で法律が改正されると、研修や講演依頼が入ってFJも会社の業績にも貢献できる。

待っているだけでは世の中の仕組みはなかなか変わりませんからね。FJがイクボスという新しい概念を作ってマーケットを広げたように、5年後10年後を見据えた社会活動で先手を打って、それが仕事にもつながって、社会に還元していくというサイクルが理想です。

――最後にこれからの目標を教えてください。

男性育休のプロジェクトを10年やってきましたが、想定していたより変化のスピードが遅いんです。

日本が他国に比べて女性活躍や働き方改革が進まないのは意識啓発に注力しすぎなのかもしれません。

もちろん意識は大切だけれど、皆さん毎日忙しいから、気持ちはあっても「いつかそのうちに」となる。それよりも、法の改正など枠組みを変えると、その仕組みの中で動くことになるので、意識は後から付いてきます。

子育てに関しても、実際に体験して脳が変わっていくという生物学的な経験が意識を変えるという研究結果もあります。

ですから、意識啓発を目的とした研修講師として登壇するだけでなく、体験や経験が出来るような仕組みやデザインに変えるよう勧める。国には団体を通して後押しをする。こうして私が関わっている人たちにはできるだけたくさんの成功体験をして欲しいと思っています。一つの目標に向かって人と人がつながって、協力していくような動きができればと思います。

――本日はありがとうございました。

講師プロフィール

塚越 学 (つかごしまなぶ)

NPO法人 ファザーリング・ジャパン 理事
株式会社日本ギャップ解決研究所 所長

公認会計士として監査法人トーマツ(現:有限責任監査法人トーマツ)に勤務し、多種多様な会社の監査業務に携わる一方、Deloitteの講師スキルプログラムをクリアし、人材育成セミナー講師を担当。2008年長男時に育児休業を取得。ダイバーシティやワークライフバランス系プロジェクトに所属し社内イベントや情報発信などを行う。
2011年次男の誕生、義兄の死、義父の介護を同時期に経験したことを契機に、日本におけるワークライフバランス推進を本業にすることを決意。監査部門マネージャーを経て、株式会社東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス推進部に転職。
ワークライフバランスの体現者である佐々木常夫特別顧問の下で、企業・労組・自治体などに対し、講演・ワークショップ・コンサルティングを行う。佐々木常夫著書ベストセラー「働く君に贈る25の言葉」をテキストとした実践講座「佐々木常夫塾」を企画し、プログラム構築、講師を担当。数多くのダイバーシティやワークライフマネジメントプログラムを企画・運営している。
また、長男の誕生を契機にNPO法人ファザーリングジャパン会員として、父親の育児・夫婦のパートナーシップなどのセミナー講師やイベント企画等を自治体、労組、企業などに対して行う。
男性の育休促進事業「さんきゅーパパプロジェクト」リーダーとして男性の育休取得に立ちはだかる個人、職場、風土の壁を打破すべく活動中。
2012年より同法人の理事に就任。
イクボスプロジェクトのコアメンバーとして管理職改革のセミナー講師やコンサルティングを行う。第一子で1か月間、第二子で1か月間、第三子で8か月間の育児休業を取得。
2023年7月に独立。日本における各種ギャップを解決すべく、株式会社日本ギャップ解決研究所所長として活動中。

<著書>
「新しいパパの教科書(学研教育出版)」「新しいパパの働き方(学研教育出版)」共著
「崖っぷちで差がつく上司のイクボス式チーム戦略(日経BPマーケティング)」監修

https://gaprrjapan.com/
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