研修では、どんなに時間が短くても
仕上げのフィードバックまで行います(後編)
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会理事
日本アンガーマネジメント協会認定アンガーマネジメントコンサルタント
文/山岸美夕紀 撮影/榊智朗
たとえば、普遍的なテーマでもあり、私が長く「電話応対コンクール」の審査員を務めていることもあって、コールセンターなどからのクレーム対応研修のご依頼、ご相談はコンスタントに受けています。
近年、そのクレーム対応の研修にアンガーマネジメントの要素を加えるようになりました。そもそもクレーム対応というのはお客様の怒りを浴びるものですから、最悪の場合、ぶつけられた怒りをストレスとして溜めこんでしまったり、その怒りを他の誰かにぶつけたりしてしまうこともあります。そういった、メンタルヘルス不調や職場環境の悪化という問題の解消方法を、アンガーマネジメントを交えながら伝える研修は各方面から好評で、お客様のクレームに落ち込むことや過剰反応することがなくなり、最終的にはお客様から「ありがとう」の言葉までいただけるようになったという声もいただいています。
そうですね、たとえば、最近広く認知されている“パワハラ”に対する取り組みとして、アンガーマネジメントを交えた研修内容の依頼も増えています。
現在の管理職の方々は、若かりし頃に鬼上司にガンガン怒られて育った世代であるのに、さて自分が上司となった今、少し厳しいことを言うと部下がメンタルヘルス不調を起こす可能性もあり、上からはパワハラを起こさないようにと言われ、じゃあどうやって注意をすればいいのか……と悩んでいる。ロールモデルがないんですよね。
また、年配の部下や年下の上司も増えているため、どのようにコミュニケーションを取ればいいかという相談も受けます。
それから、女性活躍支援の波を受けて、働く女性向けのセミナーの依頼も増加しています。女性がライフステージによって影響を受けながらも仕事を続けるために、「周囲の人々といい関係を築いていく」ためのコミュニケーション術を、アサーティブコミュニケーションや、アンガーマネジメントのメソッドも組み込んで行ってほしい、といったご依頼をよくいただきます。
かんきさんでも、「アンガーマネジメントの“叱り方”」×「アドラー心理学の“勇気づけ”」を組み合わせた「部下育成」の研修プログラムなど、いくつものメソッドを柔軟に組み合わせたプログラムを提供しています。
マネージメント層向けのプレゼンテーション研修や、時には社内インストラクターを養成したいというご要望もありますね。
それは、どの研修でも意識しているところです。時間が短くても、「今日お伝えしたことを今後、実践していってください」という形で終わるのではなく、限られた時間の中でも、気付きを得てもらい、ワーク実習を行い、そして「ここをこのように改善しましょう」というフィードバックまでをできる限りやりたいんです。「あなたのフィードバック力を買っている」とクライアントに評価していただくことも多く、嬉しいですね。
ワークでは、ペアワークよりも3人でのワークをよく行います。2人のやり取りを見て、1人がフィードバックする、という形です。それを、役割を交代して、3回行います。
また、特にプレゼンの研修などでは、発声トレーニングから、マインド面の整え方まですべて行います。プレゼンを行うときに心の中で怯んでしまえば、内容の準備が十分できたとしても説得力を持って伝わりませんから、「私はここまできちんと準備したのだから伝わるに違いない」もしくは「皆さん、聴いてくれるに違いない」といった、自分と相手を信じる“相互信頼”の向き合い方などもお伝えしていくんです。後にアンケートを見ると、そのメンタル面のレクチャーが良かったという声も多いです。
はい。それに、人ってどんなスキルを教わっても、「なるほど」と“腹落ち”しなければ自発的にやろうという気持ちにはならないんですよね。ですから、スキルとともに「何のためにこれをするのか」「なぜ、これをやったほうがいいのか」「どんなメリットがあるのか」という理由・根拠を伝えることを非常に心掛けています。
具体的で身近な事例を挙げ、その場面ごとに、相手の心理はどのようなもので、どのタイミングで、どんな行動をするのが適切であるか、と解説していきます。また、たとえば「挨拶」「笑顔」「時間を守る」といったような基本的なことこそ、なぜそれが大事なのかを熟考したうえで、わかりやすい言葉に落とし込んでメッセージを伝えることに腐心してきました。
受講者に、自分が「こうあるべき」と思っている指標を挙げてもらうワークですね。
たとえば社内会議の場合、「10分前に会議室に集合すべきだ」「5分前くらいが妥当だ」「社内だったらジャストタイムでいい」「社内だから2、3分くらい遅れても大丈夫」と、人それぞれの価値観がまったくバラバラであることが浮き彫りになります。
10分前に来る「べき」だと思っている人は、当然、遅れてくる人にイライラしますよね。つまり、人というのは、自分にとって「こうあるべき」という価値観・決まりを人に破られたときに怒りが沸くのです。けれど、自分の価値観はすべての人にとって正しいわけではない、社会正義ではないということに気づいてもらうことが第一歩です。
私がよく言うのは、「コミュニケーションというのは、どっちが正しいかケリをつけることではない」ということ。いかに相手が間違っているか証明することを目的としてしまうような関わり方は、結果的にうまくいかないものです。
大切なのは、お互いの「こうあるべきだと思っている」ということを理解し合い、違いを擦り合わせるプロセスを大事にすることだと思っています。
はい。職場の雰囲気が変わり生産性も高まったというご報告や、部下にイライラして叱り方も高圧的だった上司が変化したという声もいただき、パワハラ防止にも大きく役立っているようです。
個人では「些細なことでイライラしなくなり、ストレスが少なくなった」「怒りを客観的に捉えるようになった」という声もいただいています。
こういったアンガーマネジメントを含めたコミュニケーションの方法を活用するようになると、周囲の人々との関係性が変わり、人生そのものが変わります。様々な研修で、「人間関係上の課題・悩みが解決した」「生きるのがラクになった」、さらには「まるで憑き物が落ちたよう」なんて表現された方もいらっしゃいました。
そういう声を聞くと、本当にありがたく嬉しいですし、私の原動力になります。これからも、さらに多くの方のお役に立てるような活動をしていきたいと思っています。
――本日は大変勉強になりました。ありがとうございました。
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アドット・コミュニケーション株式会社代表
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会理事
立教大学文学部卒業後、大手企業勤務を経て研修講師に。銀行・製薬会社・総合商社・通信会社など、大手民間企業や官公庁などで「伝わるコミュニケーション」をテーマに研修や講演を実施。対象は新入社員から管理職、リーダーや女性リーダー、役員まで幅広い。
講師歴30年。「アンガーマネジメント」や「アサーティブコミュニケーション」「アドラー心理学」をベースにした「言葉がけ」に特化するコミュニケーション指導には定評があり、これまでののべ指導人数は22万人に及ぶ。近年では、大手新聞社主催のフォーラムへの登壇やテレビ出演など、さらに活躍の場を広げている。
著書は『アンガーマネジメント 怒らない伝え方』『アドラー流 たった1分で伝わる言い方』(以上かんき出版)、『働く女の品格』(毎日新聞出版社)など多数あり、本書が10冊目の著作となる。
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