上司の新しい役割は、”部下のことを
教えてもらう”。フラットな関係の1on1で
心理的安全性が生まれる(前編)
一般社団法人1on1コミュニケーション協会 代表理事
株式会社VOYAGE GROUP フェロー
文/大西美貴
VOYAGE GROUPには創業期から参画しました。2015年から3年続けてGreat Place to Work®Institute Japan による「働きがいのある会社」第1位に選ばれたベンチャー企業で、コミュニケーションが活発です。
とは言え、1999年当時の私は社会人3年目にして、自分より年上で経験もあるメンバーを束ねる営業部長になったので、どうしたものかと一時は途方に暮れました。
というのも、当時の社会は「俺について来い」という上意下達のマネジメントが一般的でした。でも、そのやり方は社風にも自分にも合わない。そこで色々模索していたところ、コーチングという手法と出会ったんです。
互いにじっくり話すことで相手の当事者意識を高めていくというコミュニケーションを学びました。これは自分に合っているなと。そこで、上下の関係にとらわれることなくシンプルに話す場を持ちたいと、月次面談という形で対話の機会を設けました。
Googleをはじめ米国のベンチャー企業では1on1というカルチャーが当たり前になっています。私自身は必要に駆られてやっていましたが、周囲の企業では多くのマネージャーが部下の思いを聞く機会を持っていなかった。あるとすれば、査定のときの面談くらいです。
本の執筆にあたっては外資系企業にもヒアリングをして、フェイストゥフェイスのコミュニケーションは日本にも必要だと痛感しました。
向こうでは形式などはあまり気にせず、それぞれが必要なことを自分流に話している傾向がありました。けれど、日本は守破離の文化です。まず守=型がないと一歩が踏み出せない。そこで、何を、どう話していくのか、テーマを7つに分類して対話を行う「1on1実践マップ」を作りました。信頼関係を築きながら部下の成長を支援するというやり方です。日本人的には型があると理解しやすく、実践しやすいと考えました。
実はそこまで明確な問題意識を抱えているわけではなく、みなさん漠然とコミュニケーションが足りないと感じているようですね。業務を回すためのやりとりはできている。けれど、部下のやる気が続かなかったり、評価に対する部下の納得感が薄かったりして思いもよらない退職を生んでしまう。
これは社会的背景が変わっているのに、コミュニケーションの取り方が変わっていないからです。成果主義はもはや終わりを迎えていて、短期的な結果だけを追い求めていては、関係は長続きしません。
面談や報連相は、コミュニケーションというよりも結果を出すための情報交換です。一方、1on1は個人に焦点を当てた対話です。同じ1対1でも大きく違います。
面談では緊張感もあって、部下もなかなか本音は言いづらい雰囲気があると思います。そこで、自分はいまどんな立ち位置なのか、どうなっていきたいのか。モヤモヤとしている部下の意志を聞き、整理して、継続的な結果を目指していくのが1on1ミーティングなのです。
私は上司と部下の「すり合わせ」が大事だと考えていますので、そこまで言い切ることはできないと思っています。上司も話をする必要はあるのですが、一般的に上司が話す機会が多いので、普段あまりできていないであろう「聞く」ことを強調しているといった形です。
面談と1on1の違いは主に2つあって、まず主体が違う。面談の主体は上司側にありますが、1on1は部下が主役であり、部下にとって良い時間にするのがポイントです。
もう1つは時間軸で、評価や目標設定は中長期の視点ですが、もっと長期に視点で考えるわけです。1on1を継続することで信頼関係が構築され、部下の働きがいや成長促進につながっていきます。
確かに、これまで実施した研修でも「必要性は痛感するが実践は難しい」という声がありますね。ただ、一度きりの研修で終わるのでなく、継続していくと違いが見えてきます。年に2回、ないしは4回研修を行い対話の場を設けている企業では、目に見えて上司側の対話スキルが上がっています。質問の仕方や会話の流れに自分の型ができてきます。
1on1での対話を活性化させていくためのポイントですが、極端な言い方をすると、1on1のときは「(部下のことを)教えてもらう」というモードに変換して欲しいのです。普段は当然上司と部下、指示したり報告される関係でいい。けれど1on1のときは上司側が傾聴、承認する態勢になって、上司と部下という従来の上意下達にとらわれないことがポイントです。
聞き出すというより、“結果として話してもらえる”スタンスが必要ですね。そのためには、話をしてもらえる伝え方や雰囲気に気をつけなければなりません。例えば、会議のあとに1on1が入っているなら、「いまの会議で立場上ああは言ったけどさ、ぶっちゃけのところどう思った?」とオンとオフのようなモード変換を行うとか。
あとは、1on1をはじめて行うときに、「教える」モードがあると、「うまくやってやろう」「正しくやろう」として、場が堅苦しくなりがちです。なので、「この前研修で1on1ミーティングを知って、対話って大事だと思ったんだよね。私もまだうまくできないけど一緒にやってみない?」と、資料を一緒に見ながら、部下と一緒に目的から話をしてみるなどしていくのは良いですね。自分もできない弱みをさらけだすことで、上意下達モードは消えて話しやすい雰囲気が生まれます。
こういった雰囲気の中だと、いわゆる傾聴というのが機能しやすくなります。【聞く】というのは誰もが持っている能力です。例えば、取引相手には必要な情報をヒアリングしますよね。同じように上司が部下に聞いてもいい。
多様性の現代では、個人が抱える問題は個別的で特有のものになって仕事とは切り離せなくなっています。いまの上司には、部下のことを教えてもらうという新しい役割があると思っています。
はい、1on1はフラットな関係がキーポイントです。関係がフラットだと、心理的な安全性が生まれるからです。安全に思うからこそ、普段は言えない話ができたり、対等にディスカッションできるようになります。そういう対等感が求められる時代になってきています。
まさにいまはマネジメントの転換期で、スタイルを変えることが求められています。傾聴は以前からあるけれど、そのやり方を変えるわけです。
メンバーの話を聞いて本音を引き出すことには価値があって、新しいマネジメントだと理解してもらうところから始まります。実践は一筋縄ではいきませんが、難しいで終えるのではなく、どう意識してやっていくか。方法はあるわけですから、自分自身も成長していくために楽しんでやってもらえたらうれしいですね。
前編はここまでとなります。後編では、研修の効果や今後の目標などについてお伺いしていきます。
1973年生まれ。千葉県出身。組織人事コンサルタント。月1回30分の1on1ミーティングで組織変革を行う1on1コミュニケーションの専門家。早稲田大学政治経済学部卒。一般社団法人1on1コミュニケーション協会代表理事。
株式会社サーバントコーチ代表取締役。Great Place to Work®Institute Japan による「働きがいのある会社」2015、2016、2017中規模部門第1位の株式会社VOYAGE GROUP(現 株式会社CARTA HOLDINGS)の創業期より参画。営業本部長、人事本部長、子会社役員を務め2008年独立。コーチング、エニアグラム、NLP、MBTI、EQ、ポジティブ心理学、マインドフルネス、催眠療法など、10以上の心理メソッドのマスタリー。個人の意識変革から、組織全体の改革までのサポートを行う。
クライアントは、一部上場企業から五輪・プロ野球選手など一流アスリートまでと幅広く、コーチ・コンサルタントとして様々な人の人生とキャリアの充実、目標実現をサポートしている。
著書に、『シリコンバレー式 最強の育て方―人材マネジメントの新しい常識1on1ミーティング―』(かんき出版)、『対話型マネジャー 部下のポテンシャルを引き出す最強育成術』(日本能率協会マネジメントセンター)がある。
https://servantcoach.jp/
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