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育成のプロに聞く!人材育成とは

2017.01.20

仕事の本質を大局的に捉えなければ
新規事業のアイデアは生まれない(後編)

株式会社水族館文庫 代表取締役
渡辺パコ氏

「ロジカルシンキング」研修の先駆者である渡辺パコさん。現在は、その豊富な知識と論理的思考力で、リベラルアーツにとどまらない「おとなの社会科」などのプログラムも提供され人気を博しています。後編では、「わかりやすい」と定評のある渡辺パコさんの研修の魅力、人材育成の課題点などについてお聞きしました。

文/山岸美夕紀 撮影/榊智朗

――一般的なロジカルシンキングの研修では「MECE」や「ロジックツリー」などの“型”を学んで、それをどう使いこなすか、という教え方が多いのですが、パコさんは、それらの専門用語をほぼ使わずにその概念を教えられているところが特徴だと思います。

そうですね、現在、主に行っている研修は「ロジカルシンキングRB(リアルビジネス)版」「ロジカル問題解決」「ロジカルファシリテーション」などがありますが、どれもあまり型から入るようなやり方はせず、いくつもの演習を通して頭の使い方を学ぶ構成にしています。

内容にも随時改訂を加えていて、現在の研修の主流になっているのが「RB版」。若手社員を対象に、「日常の(特に口頭での)やり取りを、イシューを使って正確にできるようになる」「上司への報告書、提案書、メールなど、一定の論理性のあるものをつくれるようになる」といったことを目的としています。拙書『はじめてのロジカルシンキング』を事前課題として読んできてもらいます。

「問題解決」は、その名のとおり、問題について解決策を出す能力を備える。コンサルティングスキルでもあるので少し高度になります。こちらの事前課題の書籍は『はじめてのロジカル問題解決』。

「ファシリテーション」は、会議をきちんと仕切れるようになることが目的の研修です。対立的な人がいても合意形成ができる、話が逸れた時に止めることができる、といったスキルを養います。これは、リアルタイムで行わなければならない瞬発力のいる技術なので、さらに高度ですね。

――どの研修も、スキルではなく、どのようにして物事の本質を捉えるかということを教えられていますね。パコさんがこのロジカルシンキングを教えられて20年近くになりますが、時代によって変化したことはありますか?

ロジカルシンキングはもうすでに広く知られるようになり、なぜ学ぶ必要があるのか、という説明が必要なくなったことは大きな変化です。当初は、その説明と、「すでにできている」と思っている人に「実は全然できていないんだよ」と“思い知らせる”ところから始めなければならなくて、その割合が3分の1くらいを占めていました。今は、上の世代にはほぼ行き渡っていて、研修のニーズは若い人へと推移していますね。

――講師として学生から社会人まで多くの人々と交流を続けていらっしゃる中で、人材育成や、それに関する社会の変化についてはどう感じられていますでしょうか。

今、時間外労働など表面的に色々な問題が噴出していますが、根本的な問題として、企業という存在自体が決定的に時代遅れになっていると感じます。社会は急速なスピードで大きく変化していて、その変化に企業が追い付いていない。だから今の若い人と企業との価値観に大きなズレが生じて、もともと日本にあった「3年以内の離職率3割」というようなミスマッチをさらに大きくしています。

たとえば、スピード感。今の若い人はすべての情報処理が速いですよね。友人や会社に見切りをつけるのもあっという間で、「石の上にも3年」なんて時代じゃないんです。それは我慢強さが足りなくなったとかいう話ではない。20年ほど前からそんな傾向にあるにもかかわらず、その対応が未だほとんどの企業でできていません。

――企業側と会社員との間のズレというものは、どのように解消していくべきだと思われますか?

人間はいつの時代でも、「人に喜んでもらえたか」「誰かのためになったか」というところに仕事の価値や喜びを見出すことはかわりありません。それが、現代の企業の中では見えにくくなっている。誰のための、何のための仕事かということがわからなければモチベーションは保てません。さらにそれを、スピーディに見えるようにすることが大切。

もちろん、短期で成果が出る仕事は少ないですが、長期間かかるのであるならなおさら、その仕事を分解して、それがどういう意味の作業であり、どんなことにつながっているのかを説明してあげる必要があるわけです。

でも、今や先輩や上司でもそういった「仕事の価値や喜び」を語れる人がいないんですよね。みんな見失ってしまっている。だから、企業側がきっちりとそれを持って、社員たちに示してあげなければいけないんです。

――確かに、自分の仕事を大局的に見ることができる人は多くないように思います。

そうなんですよ。たとえば、石油などのエネルギー関連製品を扱う大企業の若手に、「ところで、2015年のパリ協定でどんなことが決まったの?」と聞いてもよく知らなかったりする。自社のビジネスに直結する分野ですら知らないんです。びっくりしますよね。

そんな場面を実に多く見てきたので、「これはいかん」と、ビジネススクールの授業の中でミニ講義をはじめたんです。世界の環境問題や社会問題、政治の問題など、世の中の基本的なことをきちんと論理的に見ようという内容です。

それが評判をいただいて、やがて「おとなの社会科」として独立しました。

――弊社でも提供いただいているプログラム、「おとなの社会科」はそのようにつくられたのですね。

次世代リーダーや事業部長クラスは、グローバルな視点で「新規事業を考えろ」などということを求められます。しかし、自分の所属する企業が世界の中でどのような位置にいて、どのような役割を担っているか、また、企業の関係する分野の歴史や近年の変化などを理解し、広い視点を持っていなければ、新しいアイデアが生まれようはずもありません。

企業研修としての「おとなの社会科」では、依頼される企業のニーズに合わせて、それぞれの関連分野についての基礎知識を教えたり、その歴史背景や時代による変化などを分析しお伝えしています。世界の仕組みを論理的に見ていこうという研修です。

たとえば、薬剤を扱っている会社なら薬に関するテーマを扱ったり、エネルギーを扱う企業であれば、環境問題に対するグローバルな対応や未来展望などについてお話ししたりなどカスタマイズは自在です。哲学の側面が入ってくることもありますね。

――視野を拡張し、本質を見る目を養い、リーダーシップを育てるこの研修は、今人気となっています。では、最後に、今後の人材育成に対する要望や、パコさんの展望などをお教えください。

そうですね、企業側には、ぜひ30年40年という長いタイムスパンの育成戦略を持って頂きたいなと思っています。長期戦略の中に、若い人たちに対する超短期の価値を位置づける。難しそうにみえるかもしれませんが、やはり、老舗と呼ばれる企業は育成に対する伝統的な理念のようなものを持っていますし、ひとつひとつ伝える努力や仕掛けをもっています。

近年では、20代の若手担当者に採用や育成を任せる企業などもありますが、本来は、企業と人事部長が採用から取締役を育てるまでの育成の一貫した考え方を作っていくべきだと思います。そういう戦略的なやり方は、若い人材育成担当者だけでは無理です。

研修も、ただ楽しいから、人気があるから、という理由だけではなく、長期的な戦略に沿って選ぶ必要があります。経営者のコミットは必須で、それがあれば結構、色々なことができますよ。人材コンサルとしてそういったご相談に乗ることも可能ですので、お声掛けくださればと思います。

個人的には、ビジネス、人材の面でも、地球環境といった面でも小さな革命を起こし続けていきたいと思います。

――本日は勉強になりました。ありがとうございました。

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