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育成のプロに聞く!人材育成とは

2017.01.10

本来、人は学ぶこと、考えることが好き
その阻害要因をはずしてあげたい(前編)

株式会社水族館文庫 代表取締役
渡辺パコ氏

「ロジカルシンキング」研修の先駆者であり、現在も第一線で指導されている渡辺パコさん。わかりやすく噛みくだいた説明と、物事の本質を捉えさせるそのプログラムは評判が高く、多くのリピートをいただいています。幅広く豊富な知識と論理的思考力をお持ちのパコさんの、その知識の源などをお聞きしました。

文/山岸美夕紀 撮影/榊智朗

――弊社の教育事業部が発足した15年前からお世話になっていますが、改めて、講師になられた経緯を教えてください。

順を追ってお話しすると、大学時代は哲学を学んでいて、卒業後には広告会社に入りました。象牙の塔のような哲学の世界からその対極ともいえるマスコミの世界に移り、そのギャップがとても新鮮でしたね。

そこでは採用向けの企業広告を担当し、大企業から中小企業まであらゆる企業を何百社も取材して、コピーライターとして活動しました。

結果的には、色々な表現を創っていくときに、言葉の概念の微妙な違いを定義によって明確化するという哲学の思考訓練が役立ったと思います。

たとえば、言葉の使い分けを正確にできたり、各企業が使う言葉のニュアンスの違いなども前後の文脈から察知することができましたので、そこは苦労しませんでしたね。

――その後、独立されてフリーランスとして活動された後、ビジネススクールの講師を務められるようになったのですね。

ウインドウズ95が登場する前後のインターネット黎明期でしたので、ちょうど20年ほど前ですね。その頃は、LAN(コンピュータネットワーク)の活用法や情報活用の本質的な目的などについてまとめた本を出版し講演を行ったり、ビジネスパーソン向けの総合メディア&コミュニティを主宰したりしていたので、それに目を留めたビジネススクールよりスカウトされたという形です。

スクール側では、ITを活用しオンラインでいかにリーダーシップをとっていくか、という「TPL(テクノロジー・パワード・リーダーシップ)」というクラスを作ろうと考えていて、その講師を探していたんです。そのクラスを経て、その後、ロジカルシンキングのクラスを立ち上げました。

――20年近くにわたり、ロジカルシンキングの先駆者として、現在も第一線で指導を続けられています。さらに、教養や知識を深めるリベラルアーツを含んだ「おとなの社会科」なども手掛けられていますが、パコさんのその幅広く深い知識はどのように蓄えられているのでしょうか?

みなさんとあまり変わらないですよ。ネットと本の情報を中心として、ほかには金融、経済、政治など抑えている各分野のキーパーソンの情報をチェックするくらい。今はSNSなどで自動的に情報が入ってくる便利な時代ですよね。

Web上の情報はエバーノートに入れて、本の書籍はすべてスキャンして透明テキスト付きPDFにして保管しています。こうしてデジタル化しておかなければ、現代のスピードにとても追い付いていけません。

――情報処理能力と、物事を大局的に見て本質をつかむという力に長けていらっしゃると感じます。

どうでしょう。ただ、学生時代から、世の中の色々なことに興味がありましたし、もともと理屈っぽい人間で、ちょっと変だなと思うと気になってしょうがないタイプでした。様々な疑問を解き明かしていこうと知識を吸収していったら、それなりのボリュームになっていたという感じでしょうか。

あるひとりの先生との出会いも、私の人生の中で大きな出来事でした。高校時代、東大を首席で2回卒業したという「伝説」をもつ頭脳明晰なちょっと変わった地理の先生がいらして、彼が、地形や気候、環境とは何か、原発とはどういうものか――つまり、世界がどのような仕組みで成り立っているかということを、地球を手に置くような感じですべて教えてくれたんです。それがもう完全に私の知識の基礎になっています。

――本当に素晴らしい教えを受けたのですね。

はい。本当にわかりやすくかみ砕き、でも本質は絶対にはずさない。そんな教えでした。

先生はその後、都立のいわゆる“教育困難校”の校長となり、その学校を再生させたことで有名になりました。「校長がかわれば学校が変わる」というタイトルで本も出されて、NHKでドラマ化もされたのでご存知の方もいるかもしれません。

学びの素晴らしさを伝えていき、生徒たちや学校を変えていった方。非常に頭が切れるのですが、決して知識をひけらかさず、生徒と向き合って最適なものを提供しようという姿勢がはっきりとありました。今も、私の中には彼の教え方があって、あんな風に人に伝えることができればという思いがあります。

――そうやって培われた知識や経験を買われたパコさんは、2009年には行政刷新会議の「事業仕分け人」として登用されるなど、行政にも関わっていらっしゃいます。

現・長野県知事の阿部守一氏が高校の同級生なのですが、彼が当時の自治省(現在は総務省)で今でいう地域創生に携わっており、ちょっと協力してくれないかということでお手伝いするようになって。私はその頃から、家族と共に東京と山梨との二拠点生活をし、植林活動なども行っていたので、地方と東京という視点からの意見も聴きたいということでした。

その後、横浜の温暖化対策の協力を要請されたり、ちょうど民主党の政権となって行政刷新会議が設置されたので、そこからも呼ばれて事業仕分けに協力したという経緯です。

あくまでも専門家ではなく民間人としての関わりだったのですが、フレーム作りなど私の専門分野も役立ったかと思います。たとえば、横浜市の温暖化委対策に関する審議会で市民からアイデアを公募した際には、それらの意見をどう集めてどう使うかといった議論の枠組み、仕組みを最初に全部つくり、実行するという作業をしましたね。

最終的には応募者の方々に直接会ってヒアリングし、すべての意見を「すでに手を打っているもの」「市がすることではないもの」「民間でできているもの」「市でやるもの」などと整理して文書化した仕事は、かなり大変だった記憶があります。でも、ただ集めるだけでなくきちんと活用できなければ意味がないですからね。

――なるほど、ロジカル思考はそのような場面で役立つのですね。

そうですね、ただ、「ロジカルな思考」は仕事上だけでなく、日常的にも習慣にすべき行動様式だと、私は常々口にしています。ロジカルに考え、コミュニケートし、問題解決するということは、生きていくうえでのあらゆる場面で活きてくるのです。

――「答えのない時代」と言われて久しく、昔のように上司や誰かに聞けば答えをもらえる時代ではなくなっていると感じます。あふれる情報の取捨選択が難しい中、ロジカルシンキングは、物事の本質を最短でつかみ自分なりの答えを見つけるための最速のツールだと感じます。

そうですね。でも、ロジカルシンキングじゃなくて、ただぐるぐると思考をめぐらせるのでもいいんです。何度も同じところを諦めずにぐるぐる考えているだけでも、じょじょに答えに近づくことができる。そういうしぶとさもだいじです。

私が一貫して伝えたいテーマは、“考える”ことを面倒だと思わないでほしい、嫌いにならないでほしい、ということ。考えるって楽しいことですし、すごくコスパがいいですよね。だって、紙と鉛筆くらいあればほかには設備投資や用意なんて一切いらないわけですから。人間が寝ていても起きていても、生きている限り一番簡単にできることが“考えること”なんです。

人間はもっとも脳の大きな生き物です。元来、考えることが大好きにできているのですから、学ぶこと、考えることの素晴らしさと面白さを伝え、面倒と感じるような阻害要因をはずしてあげることができればと思っています。

前編はここまでとなります。後編では、実際の研修内容や人材育成の課題点などについてお聞きします。

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