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育成のプロに聞く!人材育成とは

2016.12.01

「勇気くじき」の蔓延する社会を
アドラー心理学で変えていきたい(前編)

有限会社ヒューマン・ギルド代表取締役
岩井俊憲氏

このところ注目を集めている「アドラー心理学」。これを30年以上前から一般に向けて広める活動を行っているのが岩井俊憲さんです。アドラー心理学に出会われたきっかけ、そして現代の日本や企業の状況、その問題点の改善に役立つというアドラー心理学の考え方などについてお話をお伺いしました。

文/山岸美夕紀 撮影/榊智朗

――アドラー心理学は、ここ数年で一気に注目を浴びるようになりましたが、岩井先生が学ばれ、研修や講義を始められた30年以上前にはほとんど知られていなかったかと思います。この心理学に出会われたきっかけはどのようなものだったのでしょうか。

本当に偶然の出会いでしたね。もともと大学時代は商学部で経営学をメインとして学び、その後、中小企業診断士なども取得して、GEの合弁会社に13年ほど勤めました。

けれどあるとき、いっぺんに「3つの絆」を失うという人生の大きな転機が訪れたのです。

GEが日本から撤退することになり、社員の50%をクビ切りしないと存続できなくなってしまった。私はその事業計画立案者だったので、人員を整理した後、自分も辞めることを選んだのです。

そして、まったく同じ時期に離婚も経験しました。結局、子ども2人を妻にわたすことになり、財産もすべてあげて、仕事と家庭、財産の3つを同時に失くしたんですね。

――それは、大変な時期でしたね。その後どうされたのですか?

しばらく失業保険をもらいながら、ボランティアで、不登校の子どもとその親の支援をしている塾のお手伝いをはじめました。

その流れで、色々な「親子関係を修復する」ためのプログラムなどを学び実践していくことになったのです。そのころは、フロイトをはじめとする従来型の“原因を探る”カウンセリングが主流でしたが、これが子どもたちにはまったく効果がなかった。たしかに、過去を掘っていけばそれなりに説明はつくけれど、解決にはならないんですね。

「親子関係の不和は愛情不足が原因」なんていうのですが、愛情過多でも不和が起こる。結局、「愛情不足」ではなく、「愛情の技術不足」なのではないか、と気づきはじめました。

そんなときに出会ったのが「アドラー心理学」だったんです。ちょうどそのころ、本場のアメリカで学ばれていた野田俊作先生が持ち帰られて、その先生のもとで学びました。

アドラー心理学というのは、基本的に「過去は問わない」んですね。現在から未来にかけてどうしていくかを考える、これが私にも不登校児と親たちにもスパッとはまったんです。

――なるほど、そういった流れの中での出会いだったのですね。アドラー心理学というものを改めて解説いただけますか。

はい、フロイト、ユングと並び「心理学の三大巨頭」と呼ばれるアドラー心理学ですが、大きな特徴は、「目的論の心理学」といって、「これから先なにができるか」を考える点。それまでの「原因論」とは一線を画す考え方です。

たしかに、人間は生育環境の影響を受けてはいるでしょう。しかしアドラー心理学では「自己決定性」といって、「自分を作るのは過去ではなく自分自身である」という理論を持っています。だから過去に原因を求めることよりも、自分がどうやって自分を作っていくのかを重視するんです。

そのために、アドラー心理学では「勇気づけ」というものを大きな柱としています。これはひと言でいうと「困難を克服する活力を与える」こと。自分も他人も「勇気づける」言動を日々選択することで、考え方が変わり、生活が変わっていきます。

勇気づけるというのは「褒める」のとは違うんですね。アドラー心理学ではどんな立場の人も人間として対等に向き合うのですが、褒めるというのは、「偉いね」「よくやったね」と、上の人から下の人への評価になる場合があります。それに対して「勇気づけ」は「共感的態度」がベースになります。

――そのアドラー心理学のプログラムを実践し、不登校の子どもたちや親の関係改善に大きく効果があったのですか?

はい、如実にありました。皆、みるみる変わっていくんです。ただ、不登校の子どもたちだけ勇気づけてもダメなんですよ。たとえば、家庭に問題がある場合、子どもが実家に帰ればまた家庭内暴力がはじまることもある。ですが、親も一緒に学ぶと、親子関係や夫婦関係、家族そのものが変わります。家庭の環境づくりが大切なのだと身に染みて感じました。

そうしてアドラーを深く勉強していき、アドラー心理学を広めるための「ヒューマン・ギルド」を立ち上げ、親子関係セミナー「SMILE」などの講座やカウンセリングなどをスタートしました。

――現在代表を務められている「ヒューマン・ギルド」設立の経緯は、どのようなものだったのですか?

これも、不思議な流れなのですが、当初はその野田先生と不登校の塾長の2人が最高顧問となり、私は雇われ社長として発足したのです。有限会社ではありましたが40人の株主が集まり、1300万円の資金を得て、よし、これでやろう!とはじまったのですが、1年経ってみたら、売上高1200万円で1900万円の赤字。もう存亡の危機なんですよ。

そこから赤字を埋めるために資金繰り地獄です。そのとき雇われ社長意識だった私の中に「私がこの会社を担わなくてはいけない」という意志が芽生えたんですね。

そんなときに手を貸してくれたのが、かつての上司や先輩といった人脈でした。会社員時代、私は人事課長で研修教育も担当していたので、大企業にいる彼らが「企業研修を提供すればいいじゃないか」ということで各方面に声を掛けてくれたんです。

アドラー心理学は人間関係に非常に効果のある心理学で、コミュニケーション能力の向上に大いに役立ちます。親子関係だけでなく、会社というコミュニティの健全化や人材育成という点にも非常にマッチするので、次第に多くの受注をいただけるようになりました。

こうして、個人向けの講座やカウンセリングなどのBtoCの分野と、企業向け研修というBtoBの二本立てができ、赤字も徐々に補填できるようになっていきました。

――30年前は「アドラー心理学」の認知度はほとんどなく、苦労されたのですね。それがいまや、ブームと言えるほどの人気になっています。

本当に感慨深いですね。ただ、私はいつかこういう日がくると信じてはいました。ここまで一気に大波がやってくるとは思っていませんでしたが。

――アドラー心理学は主に教育分野からはじまったそうですが、「嫌われる勇気」などのビジネス書籍の大ヒットもあり、ビジネスパーソンの関心も高いです。

そうですね、実際、心理学講座の受講者などを見ると女性が多いのですが、私は今一番アドラーの考え方を必要としているのは、特に男性のビジネスパーソンだと思うのです。

現代のビジネスの現場には、「勇気づけ」とは対極にある「勇気くじき」が蔓延していると感じています。最近も、某大手企業の過労自殺問題が大きなニュースになっていますが、これは一例で、日本企業はどこもあまりにも深刻かつネガティブになっている。非常におかしな時代だと感じています。

これは長年、多くの人々と交流してきた中で感じている私感ですが、成果主義が導入された1995年ころからこの傾向が顕著になってきたように思うんです。人が成果によって評価され、「ダメ出し」方式で減点される。それに伴って職場のネガティブな空気も強まっていく。

アドラー心理学では「共同体感覚」といって、所属感、信頼感を得ることが精神的な健康につながると考えているのですが、かつての職場には和気あいあいとしたところがあり、それらを感じられる風土があったわけです。しかし、「仲間」だったものが「ライバル」に、「協力」が「競争」の世界になり、「良い点」を観ないで「ネガティブ」なところを見るようになり、「共同体感覚」を失い「バラバラ」になってきている。

この「勇気くじき」の組織風土を、困難を克服する活力を与える「勇気づけ」に転換したいと強く思っています。それによって組織が元気になり、社会が明るくなる、それを目指したいんです。

前編はここまでとなります。後編では、実際の研修依頼や、具体的な研修内容などについてお聞きします。

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